2 フォーオクロックの学園

2-1 フォーオクロック学園の教師

「討伐の依頼にしては早いと思いましたが、そういう要件でしたか」


「ええ。その弓の腕を生徒に教えてほしいのです。もちろん、給金も発生しますし、貴方も自身も魔法を習うことも可能です」


 ジェダイトはいつものように、領主に呼ばれ、領主の館にいた。この前の討伐の依頼の時も通されたシンプルな部屋で領主と二人で話していた。


 大抵、領主に呼ばれるときは討伐の依頼か、人手不足だから手伝ってほしい仕事があるというような依頼しかなかったのだが、今回は違った。この街で唯一の学園であるフォーオクロック学園の教師になってほしいと言う依頼だった。


 学園や学校と言うのは中心都市や、その周りの街にしかないものだ。この街の領主は誰でも学ぶことのできる場所を作りたいと考えて、領主自身の給料だけを減らして、建てたものだ。そのお陰で、この街にも貴族などの金持ちが来て、結果として街の財政はかなり潤う結果となった。さらに、魔法が普及したことで、街中の仕事にも変化があり、皆が楽できるようになった。


そして、街の名前をそのまま付けられた学園の教師は最初こそ、この街で職人じみたことをしている者だけだったが、今では魔法使いの教師が五人もいる。その他に、他の街にいた剣士や元兵士など、様々な分野の人が教師として、活動している。そして、この学園は生徒として基本的に五年ほど在学できる。その間に、勉強したい講義を好きなように取ることが出来る。他の学校で見られる入学式、卒業式は行われない。また、在学せずとも少額で講義を一つ受けることが出来る制度もあるため、様々な人がこの学園に訪れていた。


 ジェダイトはその学園の教師になってほしいという依頼を受けた。狩人として、その腕は達人以上の能力があるのは誰もが認めることだろう。また、動物などの解体で彼の右に出る者はいないというのも、街の誰もが知っていることだろう。


 だが、彼は迷っていた。自分の技術を教えるというのはアーダルベルトにしかしたことがない。ジェダイトと彼は友人であるため、その言葉も伝わりやすいかもしれないが、不特定多数となると話が変わる。果たして、自分の言葉が相手に伝わるかどうかがわからない。


「もし、教えられるか不安と言うことでしたら、あまり問題ないかと。鍛冶師のゼンと言う方は無口ですが、かなり人気の講義をやっています。なんでも、鍛冶の腕は一流で見ているだけでも得る物があるとか」


 領主は一度、言葉を区切って、ジェダイトの顔を見る。


「そもそも、その技術を覚えたいと考えた意欲的な方が講義を受けるので、見て技術を盗もうとする生徒がほとんどです。伝え方に関してはあまり気にしなくてもいいと思います。それでも決められないというのなら、一日教師体験と言う手もありますよ」


 その言葉に頷けば、なし崩し的に教師をやることになりそうだ、と彼は考えているが、譲歩してくれてそれでも嫌だと断ることはできない。心は決まっていたが、少し悩むふりをして、口を開く。


「わかりました。じゃ、一日だけやってみます」


「ありがとうございます。必要なものがあれば、私に申してください。なんでも用意しますよ」


 領主はキラキラした笑みを彼に向けた。ジェダイトはそこまで期待されても困ると思ったが、それでも当日は頑張ろうと思えた。




 そして、三日後、教師としてフォーオクロック学園に領主と共に足を踏み入れた。


 見た目は領主の館にかなり似ていて、レンガ造りで三階建ての建物だ。建物の入り口は領主の館よりも大きく、両開きの扉が三組間にガラスを一枚挟んでおいてある。その場所から人が出入りしているのが見える。そこから中に入ると、受付と書かれたプレートの置かれた机があり、その奥に三人の女性が座っており、来た人の対応をしているようだ。そこから左右に延びた廊下を通っていくと、教職員室と書かれた扉があった。領主がその扉を開けて、ジェダイトを中に通す。


 その部屋の中にはいくつもの机が並んでおり、それぞれの机の上にあるものは統一性がない。彼がきょろきょろと見回していると、ローブにとんがり帽子と言ういかにも魔法使いと言った格好の女性が近づいてきた。


「新しい先生ですか?」


「ええ、とりあえず、一日体験です。皆さん、少しいいでしょうか」


 そこにいた人たちが領主の方を見る。本当に色々な人がいる。人間ではないものも混じっている。頭に角がある者、獣のような手を持っている者もいる。


「彼はジェダイト・ローリエと言うもので、この街で魔獣の討伐と、狩りをして精肉店を営んでいる方です。今日一日ですが、彼には弓の授業をしていただきます。一応、私が着きますが、彼が困っていたら助けてあげてください。以上です」


 そこにいた人たちと挨拶もそこそこに、ジェダイトと領主は街の入り口にいた。彼の周りには男女合わせて五人の生徒がいた。そのうち三人はジェダイトの顔を知っているものだ。アーダルベルト、シャルロッテ、マリアである。あとの二人のことは知らない。とりあえず、自己紹介をしあうことにした。


「僕はジェダイト・ローリエと言います。弓の扱いを教えます。じゃ、他の人も自己紹介をお願いします。いざとなった時に名前を呼びあえないと、危険なのでお願いします」


 率先して自己紹介を始めたのは、アーダルベルト。そのあとに、シャルロッテ。そして、マリア。あとの二人は男で、ホップとパームと名乗った。


 ホップは身長がこの中で一番低く、すばしっこそうな印象を受ける。バームはホップとは真逆の印象を受ける。おとなしそうで、あまりすぐに動けるような印象はない。どちらかと言えば、頭を使うのが得意そうだ。


 ジェダイトが森の中では自分から離れないというのを絶対のルールとして決めて、逃げろという指示には従うように注意を促した。このルールは一緒に来た領主にも従ってもらうことを伝えた後、森の中に入っていく。

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