1-3 狩人の精肉店
翌日。ジェダイトは今日、自身の経営している精肉店で売るための肉を狩るために森に来ていた。そして、今日も森の中でアドバイスを聞いた。指示された方向に向かえば、今度は野良犬三匹に襲われているマリアを見つけた。
「た、助けて」
彼女はジェダイトに気が付くと、その瞳を見つめて、そういった。ジェダイトはすぐに矢を放つ。昨日の魔獣より数が多いが、彼にはあまり関係がない。数が多い時は狙いをつけずとも、多く放てば当たるというものだ。彼の場合は狙いをつけてもなお、素早く射ることが出来た。その結果、彼の放った矢は野良犬の目に刺さり、犬はキャンと鳴き、矢が放たれた方を睨む。三匹ともどちらかの目が潰れている。そのせいか、飛んでくる矢を回避することが出来ずに、全て矢を受けて、その場に倒れた。
「大丈夫ですか」
昨日とは違い、相手は照れくさそうにしていた。彼女も二日連続で同じ人に助けられるとは思っていなかったのだ。ただ、彼が狩りをしていなければ、彼女は死んでいたかもしれない。
「あ、ありがとう、ございます。昨日も、今日も。あはは……」
――人が接近しています。敵性なし。
「マリアさん。どこに居るのでしょうか」
草をかき分け、その場に出てきたのは長い金の髪にはっぱをくっつけたシャルロッテだった。
「マリアさん。森の中に入ってはいけないと言いましたよ」
シャルロッテがマリアを見つけると、少し心配していた彼女の表情が無表情に変わる。そして、その冷たい瞳をマリアへと向けた。その場にいたジェダイトもまるで周囲の温度が下がったように錯覚する。そこで、ようやくシャルロッテの視界にジェダイトが映る。そして、その場に矢が刺さった野良犬の死体も認識する。
「マリアさんを助けていただいたようですね。ありがとうございます」
「いえ。狩りをしている途中でよかったです」
「本当にそうですね。マリアさん、なぜ森に入るのです。危ないと説教したのをお忘れになったのですか」
「いや、そのシャルロッテ様に似合う花を探しに来たんです」
しぶしぶ、と言った様子で彼女は上目遣いでシャルロッテを見つめる。シャルロッテにその瞳は通用せず、先ほどの冷たい瞳が彼女を射抜く。
「花など必要ありません。そんなことより、もっと有意義に時間を使いなさい。もう街に帰りますよ」
彼女は冷たい言葉を吐き出すと、マリアを無理やり立たせて、その手を引っ張って街の方へと戻って行った。
「シャルロッテ様。自分で歩けます」
「手を離したらどこかに行ってしまいますでしょう。離しません」
がっちりとマリアの手首をつかんで、逃がさないシャルロッテ。マリアはその手を見つめて、少し嬉しそうにしている。
――野良犬の鮮度が低下します。早急に、処理をした方が良いでしょう。
ジェダイトは二人の様子をじっと見つめていたが、超能力にその意識を戻される。彼は狩った野良犬を解体して、布にくるむ。それを持って、街の中に戻った。
野良犬を処理して、食べられるようにする。そして、ここ最近狩ってきた肉を店に並べた。魔獣討伐での稼ぎがあるので、この精肉店は趣味のようなものだ。肉を買ってくれた客には他の肉をサービスして、値段以上の量を持たせていた。そのお陰か、店の肉はすぐになくなる。精肉店はここだけではないので、この街から肉がなくなるということもない。ただ、彼の処理した肉は一番うまいと評判だった。
「あ、こんにちは。今日狩ってきたのは、野良犬ですね」
「じゃ、それちょうだい」
「はい、ありがとうございます」
彼は客が指定した量以上に渡した。料金は欲しいと言った量の分だけだ。
「いつも悪いね。ほんと、こんなにおいしい肉はこの街にはないよ」
「そう言われると、嬉しいです。またサービスしますよ」
「そんなつもりじゃないんだけどね。じゃ、また来るわね」
主婦とのやり取りも手慣れたもので、この店を始めた頃よりも褒められても浮かれなくなった。肉の処理や、解体の技術もかなり向上している自負はある。だからこそ、褒められるとお世辞でも嬉しくなってしまう。
「あ、ジェダイトさん。こんにちは」
店の前に来たのは、マリアだった。街中で会ったのは初めてだろう。恐怖を感じていない状態の彼女は可愛らしく、微笑むとその可愛さが際立つ。彼はその笑顔に癒されていた。
「サンフラワーさん。こんにちは」
「マリアと呼んでください」
可愛らしい笑顔で言われるとどうにも拒否できず、彼は少し照れながら彼女の名前を呼ぶ。
「マリアさん。改めて、こんにちは」
「本当はさん付けも必要ないのですが、無理強いも良くないですよね。そして、ここがおいしい肉が売っていると評判のジェダイトさんの店ですか。お肉屋さんなんですね」
マリアは店に並ぶ肉を、興味深そうに見ている。
「そうですね。お客さんは皆さん、美味しいと言ってくれます」
「へぇ、そうですか。私もどれかいただけますか」
パッと顔を上げて、キラキラとした笑顔を彼に向ける。そういう笑顔に慣れていない彼はどうしても照れてしまう。それでも、それを隠して、接客している。
「そうですね。では、これとこれを包みましょう」
そう言って、彼はいくつかの肉を包んだ。包んでいる間に彼女はそわそわしていた。
「あの、一応お金はあるんですけど、どれくらいの値段ですか」
「いえ、お金はいりませんよ。勝手にプレゼントするだけですよ」
「え、いや。そんな悪いですよ。ちゃんとお金を払います!」
「そうですか。じゃ、また来て、今度はご自分で肉を選びに来てください」
「そ、そうですね。じゃ、そうします。 ありがとうございます」
ジェダイトは気づかなかったが、彼の言葉に彼女は頬を赤くしていた。なぜなら、またここに来ていいと許可をもらったからだ。また、会いに来ていいと言われたようで、それが照れくさいが嬉しかった。
そうして、彼女はプレゼントされた肉の包みを持って店を出ていった。
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