1-2 領主の息子
ジェダイトに街の入り口で話しかけたのは、この街に住む貴族、マリーゴールド家の一人娘のシャルロッテだった。狩人である彼だろうが、誰であろうが、身分の高い者には胸に手を当てて、礼をするのが習わしだ。
「頭を上げてください。少し聞きたいことがあるだけです」
そして、マリーゴールド家の一人娘は愛想が悪いことで有名だった。街中に流れる噂には一度も笑ったことがないとか、平民をいびっているとか酷い噂もあるため、あまり彼女に積極的にかかわろうとする人は少ない。
「そうでしたか」
「それで、先ほど女性を助けた、と聞いたのですけど。そのあと、その方の行方をお伺いしたいのです」
「マリアという女性のことでしたら、街に送り届けた後のことはわかりません。すぐに魔獣の討伐に向かったので」
そういうと、シャルロッテはお礼を言って、その場を去ろうとしている中、彼は自身の超能力を使用して、マリアのいる場所を助言してもらおうとした。
――マリア・サンフラワー。現在地、不明。
その結果を知って、彼はシャルロッテを止めることなく見送った。
彼の超能力も万能ではない。助言できるのも彼の持っている情報や認知している者からだ。彼は狩人であるために、無意識に情報を集めている。その情報も含めて、彼の為になる助言になっているというわけだ。彼はそこまで理解して、この超能力を使っているわけではなかった。
彼は街に入り、そのまま魔獣の討伐の依頼主である領主の館まで来ていた。二階建てのレンガ造りの館で、館の周りには噴水のある大きな庭になっているが、この庭は誰でも自由に入ることが許されている場所で、子供の遊び場にもなっている。この館は一階が公的なスペースになっていて、二階が領主や使用人の生活空間になっている。彼は館に入ると、受付で依頼のことについて話した。すると、すぐに二階に案内された。
二階は一階に比べて静かで、人の気配もほとんどなかった。案内役の後ろについていき、目的の部屋に着いたのか、一室に案内された。
「少々お待ちくださいませ。領主を呼んでまいります」
そういうと案内役は部屋の前から消えた。その部屋は白い壁の部屋で、部屋の中央に机があり、その周りに椅子が並べられている。派手な装飾などはなく、シンプルな部屋だ。彼はその部屋に何度も来ているため、おとなしく椅子に座って領主を待った。
「すまない。待たせてしまった」
息を切らせて、入ってきたのは領主だ。暗い緑のブレザーを来た、若々しい男性だった。見た目は三十代だが、既に四十七歳だ。
「まさか、こんなに早く終わるとは思わなかったが、ありがとう」
領主は金貨の入った袋を彼に手渡した。金貨の量は五十枚ほど。それだけあれば、三か月は仕事せずとも暮らせるほどの金銭だ。
「毎回のことですが、こんなにもらえませんよ」
彼はその袋の中から、五枚ほど取って後は領主に返した。
「さすがにそれだけでは。命の危険もある仕事だ。正直な話、この袋の中だけでも少ないと考えている」
領主は袋から、十枚ほど金貨を取り出して、それをジェダイトに握らせた。彼は苦笑いして、その金貨を貰った。彼自身、普段は獣を狩り、肉屋を経営しているため、あまり生活には困っていないため、そこまで貰う必要がないのだが、これも領主の感謝の気持ちだと思うと、頑なに要らないというのも失礼な話だと思い、その金貨を受け取った。
その後、領主と世間話をした後、館の一階に降りた。館から出ようとすると、出入り口のところで声をかけられた。
「お疲れ様。ジェダイト」
短い金髪の美少年。黄色の大きな瞳に高い鼻。形の良い唇にその綺麗なパーツをまとめている輪郭。美少年と言わずに何というのかと言ったよな顔立ちだ。白いシャツに黒のブレザー、グレーのスラックスを着用している。腰の辺りには白い握りの剣を帯剣している。彼は領主の息子のアーダルベルト・フォーオクロックであった。
アーダルベルトとジェダイトは年齢も十八歳と十九歳と近く、二人は友人だ。ジェダイトの弓術はアーダルベルトに教え、ジェダイトの剣術はアーダルベルトに教えている。よく食事もともにするような仲である。
「うん、アーダルベルト。ありがとう」
「休憩がてら、喫茶店に行かないか」
「いいね。行こう」
彼らはその後、喫茶店に行き、お喋りをしていた。
「アーダルベルト。まだ、駄目なのか」
「見た目は美しいと思う。けど、怖いんだよ」
話はアーダルベルトの婚約者の話になっていた。領主の息子である彼は貴族の娘との婚約を結んでいるのであった。そして、その相手がシャルロッテなのである。彼は今日話しかけられただけに、愛想の無さを思い出していた。
「でも、噂みたいな人じゃないんだよな」
「そう。酷い人じゃない。でも、厳しいんだ」
ジェダイトはそれだけ相手のことを想っているからそういうことを言うのだと思ったが、それを今言っても彼は納得しないだろうと、思って口には出さない。
「ま、いつか慣れるかもしれないし」
「慣れないよ。あれは」
今はどういっても仕方がないと考えて、ジェダイトは話を変えた。
その後、世間話をして、喫茶店から出た。もう外は暗くなっていた。彼らは別れを告げて、それぞれの家に戻った。
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