死に戻るシャルロッテ

bittergrass

1 フォーオクロックの街

1-1 狩りの途中で

 森の緑に紛れるような服装の男がいた。男は矢筒を肩に掛け、弓を持って周りを見渡していた。彼がこんな場所にいる理由は簡単で、彼の住む街に来る商人を襲った魔獣を仕留めてくれとの依頼を受けたからだ。普段、勝った獣を肉屋で売っている彼はその狩の腕を認められ、こういった魔獣の討伐の依頼も受けていた。彼自身も街を守ることに協力できることが誇らしいと感じている。無償でやっているわけではないのだが。


「ここらにもいないのか。そんなに広い森じゃないんだけど」


――周辺に魔獣の反応アリ。右前方です。


 彼の思考に浮かぶ言葉があった。それは彼の意志とは関係ないものだ。そして、これは彼の超能力であった。この世界では超能力自体は珍しくはないし、彼のような超能力を持ったものも珍しくない。


 彼は自分の超能力の助言を信じていた。そのアドバイスに従って状況が悪い方向に行ったことがないのだ。だから、彼は今回もその助言に従って、魔獣がいるであろう方向に移動した。




 彼がその場所に近づいていくと、そこから声が聞こえた。


「た、助け、助けて、誰か……」


 その声はか細く、近づかないと聞こえないものだった。女性は恐怖で大声を出すことが出来なかった。


 彼はその言葉が聞こえたわけではないのだが、四足歩行の灰色の魔獣に襲われているのを見て、それを放置できるほど鬼畜ではない。すぐさま、矢を番えて射る。魔獣の胴に矢が刺さる。何度も、魔獣の討伐を行っている彼は矢が一本刺さっただけでは魔獣が死なないことを知っているので、次々と矢を放った。矢は全て刺さり、魔獣は鳴くこともなく、その場に倒れた。


 女性は魔獣が倒れても、その顔から恐怖は取れない。彼は弓を下ろして、すぐに木の影から出て、魔獣の死を確認した。そのあと、女性に視線を向けた。


 女性はセミロングの金髪で、綺麗で大きな青い瞳が特徴的だ。恐怖に歪んでいる顔でさえ、美少女だと思えるほどに整っている。白いティーシャツに灰色のベスト、それと一体になったロングスカートを着ている。スカートには草や木、花をイメージした刺繍が控えめにしてある。走っていたのか、その服は乱れていた。


「大丈夫ですか。もう魔獣はいませんよ」


 彼はその美少女にも躊躇うことなく声をかけた。少女は彼の差し出した手を見た後に、その先の彼の顔に視線を合わせた。そして、徐々にその顔から恐怖が取れていく。その瞳から涙が零れた。


「あ、ありが、とう」


 安心から涙が、止まらなくなる。彼は少し躊躇ったが、女性の頭を撫でた。しばらくそうしていると、女性は泣き止み、恥ずかしそうに微笑んだ。彼はその笑顔をみて、頬を赤くする。きっと彼でなくとも、その笑顔を見れば照れるだろう。それほどに可愛い笑顔だったのだ。


「すみません。取り乱してしまって。助けていただいてありがとうございました。あの、お名前を教えていただいてもよろしいでしょうか」


「あ、僕はジェダイト・ローリエと言います」


「ジェダイトさん、と言うのですね。私はマリア・サンフラワーです」


 マリアは彼の名前を何度か呟くと、一つ頷いて、笑顔になる。


「とりあえず、まだ魔獣がいるかもしれません。一緒に街に戻りましょう」


 彼がそういうと、マリアは、はいと返事した。彼女が立ち上がるのに、彼が手を差し出すと、マリアは少し照れたようにその手を取って立ち上がった。そして、森を抜けて、街に戻った。




 道中、話を聞けばマリアはシャルロッテという女性に花を持っていこうと思って、森に入ったようだ。特に目的の花はなかったが、綺麗な花なら森の中にあるかもと思ったらしい。彼は花屋に行けばいいと思ったが、自分で採ったものを持っていきたいのかもしれないと黙っていた。


 街に着いて、彼女を街の中に入ってもらう。彼はまだ、魔獣がいるかもしれないと森の中に戻ることにした。


 森に戻ると、彼の超能力で、魔獣がいる場所を知り、残りの魔獣五体を討伐して、街に戻った。




 再び、街に戻ってくると、木で組んである門の辺りに金髪の女性が門番と話していた。その女性は先ほどの女生徒は違い、腰の辺りまで、伸びたストレートの綺麗な金髪で、服は落ち着いた青いドレスのようなものを着ていた。スカート部分も膨らんでいない。派手な装飾はついておらず、スカートの裾に金色の縁取りをしてある程度だ。


 その横を通らないと街の中に入れないので、彼が横を通りがかったところで、門番の視界に入った。門番は彼を指さした。


「多分、あの男性ですよ。シャルロッテ様の探している女性と一緒にいた人は」


「そう。ありがとう」


 彼女は門番にそう告げると、その場を去った。


 今のやり取りは彼の耳にも入っていたが、彼はそれを意識していないので、聞いていないのと同じ状態だ。


「そこの緑の服の方。少しよろしいでしょうか」


 彼は自分のことだとは思わなかったが、近くで声がしたので、後ろに振り返った。そこにいたのは先ほどまで、門番と話していた女性だ。


「何か、御用でしょうか。シャルロッテ様」


 彼は右手を胸の辺りに当て、少し頭を下げた。

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