私のライバルは星でした

takemot

私のライバルは星でした

 ああ、はい。分かってましたよ。こうなることくらい。


 でもさ、ありえないと思うんだよね、普通。女の子の部屋に来てさ、ひたすらベランダで星を見てるだけって。


 今日は、君の二十回目の誕生日。大学からの帰り道で、「誕生日プレゼント何がいい?」って聞いたら、「じゃあ、久々に姉ちゃんの部屋行っていい?」だよ。期待しちゃうじゃん。今まで、ただの一つ上の幼馴染としか思われてなかったけど、これを機に告白されるんじゃないか、とか。


 ウキウキ気分でお酒も用意してさ。酔った勢いで君の本心を聞いてみたいとか思ったりしてさ。本当にバカみたい。昔から、君が私の部屋に来る目的なんて、『ベランダから星を見る』くらいしかなかったのに。私の部屋のベランダが最高のスポット? 何それ? 訳が分からない。


 いつもより星が綺麗って? よかったねー。誕生日にいいもの見れて。


 クッ、星のやつめ。小さい時からあんたが私のライバルだよ。今まで一回も勝ってないけどね。


 そういえば、小学生の時だっけ、君が星に興味を持ったのって。中学生の時なんかは、「僕、『世界で一番好きなもの何?』って聞かれたら、迷わず『星』って答えるよ」って言ってたなあ。まさか、二十歳になる今でもそれが変わらないなんて、あの頃の私は想像もしてなかったよ。


 いつか、君の世界で一番好きなものを『私』にしてやる、なんて決意するだけして、それが実現できてないって、情けないにもほどがある。


 姉ちゃんもこっちおいでよって? ああ、はいはい。行きますよ。ベッドの上に座ったままベランダにいる君を見てるだけなんて、辛すぎる。どさくさに紛れて手でも握ってやろうか。それとも、思い切って君のほっぺに……やばい、緊張してきた。


 ……相変わらずかっこいいね。君に惚れてからかなりたつけど、見飽きるなんてこと考えられないね。そして、そんな君の顔を真正面に向けてもらってる星。私は、今、君の横顔しか見れてないのに。ムググ……。


 ……へ? 急に何言い出してるの? やめて。今日はありがとうなんて言いながらキラキラした顔を向けるのは。心臓がバクバクするから。音、聞こえちゃうから。やばいやばいやばい。ただでさえ、さっき緊張しながらベランダに出たのに。これ以上はもう……。


 か、顔が赤くなってるなんて気のせいだから。ただ、ちょっと予想外の事態が起こっただけだから。よし、ここは一時撤退を…………。


 …………だから駄目なんだって、私は。いつもいつも肝心なところで逃げちゃうから、君に振り向いてもらえないんだよ。そう。これはチャンス。チャンスなんだ。


 今日は君の二十回目の誕生日。時間は夜。星も綺麗。正面を向く私と君。ムード最高。状況ばっちり。障害物なし。告白するなら今しかない。本当は最初に君の思いを聞きたかったけど、そんなこと言ってたら、私は星に負けたまま。今日こそは、今日こそは、今日こそは。


 うわあああああああああああああああああああああああああああああああ。







「誕生日、おめでとう」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

私のライバルは星でした takemot @takemot123

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ