「頼んだよ。」

白坂 桜

真実

「この最後の勝負に君が勝ったら伝えるね。」 

私は差し出された手を握った。


 「愛白 遥です。一年間よろしくお願いします。」 

自己紹介を乗りきったと安心しているとすぐに次の人の出番になる。 ガタッと音をたて、椅子から立ち上がったかと思うと、勢いのある自己紹介が始まる。 

「俺の名前は、井上 優希です。この一年間めっちゃ楽しみたいので、面白いこととか、おかしなことがあったら、俺に教えてください。一年間よろしくお願いします。」 

クラスから「わかった」という声が聞こえる。 

自己紹介が終わって、瞳と颯太と陸君が同じクラスでないことを痛感していた。

そんな時肩をポンポンとたたかれる。 

振り返ると、井上さんが「よろしくな。」と笑顔であいさつしてくる。

私もよろしくと返す。  

「愛白って愛俵小の人だよね?」 

「うん」 

「俺佐賀野小から来たんだ。これから仲よくしような。」 

「うん」

この中学は色々な小学校の人が通っているのによくわかるな。

一限目が終わり、私は早速瞳のもとへと向かった。 

「あぁ瞳、1時間ぶりだね。なんで瞳ともみんなともクラス離れちゃったの・・。」 

「離れちゃったって言っても、隣のクラスでしょ。離れるのは授業受けてる時だけよ」 

瞳のその言葉にうなずき、ひたすら寂しさを語っていると、

「教科書配るわよ」 

と、瞳のクラスから聞こえ、瞳は自分のクラスへと戻っていった。 

私も戻らなきゃと、自分の席に視線を送ると、私の席 正確には井上さんの周りに人が集まっており、戻ることができなかった。 

男女の笑い声が聞こえてくる。 

「あっ、愛白戻ってきてる!みんな席開けろ~」

井上さんが私に築きそう言うと、みんなは静かになり、先生もそれにあわせて、「みんな席に戻って。」 と言った。集まっていた人たちは、自分の席へと戻っていく。 

小学生の時は、みんな、なかなか戻らなかったのに。中学は違うな。

「さっきはありがとう。」

振り向き井上さんを見て言うと、

「愛白さんってやっぱり元気なんだね。」 と言われた。なんのことかと混乱していると、 

「やっぱ、今の話は、なし。」と言われる。 

正直わからなかったが分かったと返事をした。

帰りの会が終わり、すぐに瞳のクラスを覗く。 

「あ、また明日~」 

瞳のクラスから小学校が一緒だった女の子がこちらに手を振っている。

「うん。また明日~。陸たち、昇降口で待ってるっていってた。」 

おっけ~。なんて話していると、同じクラスの子と視線があい、頭を下げて、2人の元へと向かった。

「よ、朝ぶりだな。友達出来たか?」 

「まだ~颯太は出来たの?」 

「あたぼーよ。陸はできたのか。」 

「いや。自己紹介ミスっちゃって。」 

「そういうときもあるよ!」

陸君を励ます。

「ありがとう」

笑顔も素敵だ。

そんな私に瞳が静かににやけてますよ。と伝えてきた。 


 部活に入ることなく、授業が終われば、すぐに瞳のクラスへと向かう。

「瞳~みんなのとこ行こ〜」 

私がそう言うと、瞳が

「あの二人一緒にいるのやめよっていってた。だから、行きも帰りも‥。」

と、告げた。中3になって、突然のことだった。

突然すぎるその言葉に私はただ唖然としていた。

なんで。と問いかける前に

「そういえば、遥のクラスにかっこいい人いるって噂になってるよね~」

と瞳は話を変えた。 

「あっ、うん。井上さんがかっこいいって騒がれてる。」 

「そうなのね。」 と、瞳はそれ以上話さなかった。

どうしても会話を続ける気にはなれなかった。 


「ただいま」

「おかえり」 

家に帰れば、夏芽お姉ちゃんが出迎えてくれる。 

「ご飯食べよ。」

その言葉に私は、いいや。と答え、自分の部屋のベットへとむかった。 

いきなりどうして…。

相談したいけど、お姉ちゃんの忙しさは私が一番知っている。


 3年生になって、はじめて怒られてしまった。 

昨日のことを、瞳に問いかけてみようと思ったが、できなかった。

放課後、瞳の委員会が終わるのを教室で待つ。

「久しぶり。愛白平気か?」 

と、初対面の時のように井上さんが肩をたたいてくる。 

私は井上さんに相談するのも違う気がしてうん。と答えると、

「悩んでるなら、良いアドバイスはできないかもしれないけど、聞くことならできるよ。」

その言葉を聞いて

「えっとね・・。」と、気が付けば口を開いていた。 

私は小学校から仲が良い子とまた一緒にいたいことを伝えた。 

「俺が言うのもあれだけどさ、中学生って難しいから。」 

「難しいって・・。」 

「思春期ってやつじゃないかな。まぁ時がたてばきっと戻れ・・」 

私は井上さんの言葉をさえぎってしまった。 

「戻れないときだって‥。」 

口から漏れたその言葉と感情に嫌気がさす。 

私のなかにはみんなに嫌われてしまったのではないかという可能性が浮かんでいた。

「俺だって、時がたっても戻らないことがあるって知ってるよ。」 

井上さんは眉を下げて悲しそうに笑う。 

初めて見る表情だった。 

返す言葉がなかった。

井上さんは、仲が良い子達ってどんな人たちなの?と先程と変わらずたずねてきてくれる。

「 瞳って子はね、私のもう一人のお姉ちゃんみたいな感じで、

 陸君は、私がこけちゃったんだけど必死に痛みを和らげようとしてくれて。 そこから好きになったんだ。

 颯太は、いつも楽しいこと提案してくれて、私のお姉ちゃんのこと大好きなの。 

 私、陸君が一緒にいるのやめよって二人に言ってるの聞いちゃって‥私は、陸君のこと好きだけど相手は嫌いだったのかなって。」 

私がそう告げると、

「俺ね、愛白のこと小学生のころから知ってたんだよ。 愛白は、築いてくれなかったけど・・。 」 

井上さんの突然の言葉に、あの頃がよみがえってくる。 

「俺ね、陸と昔から仲良くて、君たちが遊んでる中に入れてもらったことがあるんだ。陸に秘密基地作ったからおいでって言われて。秘密基地って秘密だから、秘密基地っていうじゃんか。俺行っていいのかなって思いながらついていったらさ、愛白が手引っ張ってくれて。」 

「優希君、ようこそ秘密基地へ。

ここへ来てくれたってことは、秘密を共有しに来たんだね。」 

私は自分が言った言葉を思いだす。

優希君は、ほほえむ。

「俺ちょろいからさ、そのあとも、優しくしてくれた愛白のこと知りたくて、陸とちょっとしたゲームをするようになったんだ。」 


「どんなゲーム?」 


「腕相撲。」 


「腕相撲!?」 


斜め上の回答に驚く。 

優希君は照れくさそうにうん。と答えて、ある提案をする。

「君が僕に勝ったらさ、陸のこと教えるよ。」

勝負事は大好きだし、 

陸君の発言の意図が知りたくてぜひ。 と答えた。 


 優希君は決して手加減なんてしなかった。 

あの日から陸君には、会えていない。

きっとそれはクラスが離れているからで、 瞳は行き帰り一緒で、颯太は廊下で会うたびに話していた。 

会えない悲しみと嫌われてしまったのではないかという不安を感じていたが、優希君とのゲームで、自然と薄れていった。 

受験が終わり、瞳も颯太も颯太いわく陸君とも同じ高校に通えるようになった。優希君もだ。

高校ではまた普通に話せるように。

あの時のようにまた。


卒業式はあっという間だった。 

 「この最後の勝負に君が勝ったら伝えるね。」 

優希君のその言葉を合図に、最後となった恒例の腕相撲が始まる。 

周りには誰もいなくて、二人きりの勝負。











優希君は、わざと負けた。 


私に最後に築かせるように。 

高校では私が浮かないように。 


 「愛白と俺がまだ中学生になる少し前に‥」 


優希君の苦しそうな表情を見て私は静かに口を動かした。 どこかで築いていた。


「瞳も、颯太・・陸君も。 

亡くなっていたんだよね。

秘密基地が壊れて‥。」 


優希君は静かにうなずいた。 


「気味が悪い生徒ですね。」 


「愛白さんって、入学前に・・。」 


「1年の時挨拶してたのに‥。」


「いつも、誰と話してるんだろうね。」


みんなの声は、うっすらと聞こえていた。

その声を聞いて私が傷つかないようにしていたのは、


「愛白、腕相撲やろうぜ。」


優希君だ。


「愛白。陸はさ、俺が君について聞いたときに、なんで腕相撲に勝ったら教えてあげるって条件をつけたとおもう?」 


私は、なにも答えられなかった。


「君が好きだからだよ。陸は嫌で一緒にいるのをやめたいと思ったんじゃない。愛白に迷惑をかけたくなかったからだよ。」

そうだったのか。

ただ泣くことしかできなかった。

嫌われたと勘違いしていた自分と 、心移りしてる自分を腹立たしく思ってしまった。 



「遥の思いなんだから大切にしなきゃだめよ。もっと話したいってわがままで、遥を困らちゃってごめんね」


「移り変わるもんだよ心なんて。 

俺も、遥も瞳のことも好きだったことあるし。もっとみんなで楽しいことしたくて話しかけちまってごめんな」 


「遥、僕は君が好きだった。でも…小学生の恋心なんて変わるものだし、僕は遥に幸せになってほしいんだ。さけちゃってごめんね。」 


「謝らないで。」

その場にいないのは分かってる。 

でも、声がするし、みんなの表情が見える。 

瞳は本当にお姉ちゃんみたいだ。いつも背中を押してくれる。 

颯太は私の思いを肯定してくれている。でも、お姉ちゃんのこと大好きなの知ってるよ。 

陸君は悲しそうだけど、どこか嬉しそうに優しく微笑んでいた。

あのまま真実に直面していたら受け入れられなかった。


「優希。頼んだよ。」

優希君は任せてと微笑んだ。


短いように感じた中学生活は終わりを告げた。

あの時私を救ってくれた手の温もりを忘れないように私は、優希君の手を握った。

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「頼んだよ。」 白坂 桜 @sraska_sakura2248

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