空蝉

 翌週、山吹は早速表紙案を作ってきてくれた。コントラストの強いけばけばしい絵柄だったが、テクスチャーがそれをカバーして、若干渋めの表紙となっていた。絵の中心に「空 蝉うつせみ」と少し大きめに載っている。

「私はあまり皆さんの文章を読めてないんだけど、タイトルはこれで行こうと思って――、」

 絵柄も白、緑青ターコイズ朱色スカーレット赤黒マルスブラックのフロッタージュとポーリングで抽象的に済ませてスキャンしたもので、中心で白抜きに「空 蝉うつせみ」のタイトルは悪くないと思えた。――学部生も割と納得しているようである。

 みどりは最後に表紙案を手にして、

「いいですね、あまり意味にとらわれずに目に入る感じで――」

 山吹の説明によれば、リアリティを求める作風が多くあるような気がしているというのが今回の文芸集のテーマらしく感じたことが、「空 蝉うつせみ」とする理由となったらしく、混とんとしている絵柄なのは、文芸誌に作品を持ち寄って一つにするため、各章はそれぞれであるからということであった。

「原画は油画あぶらえだね?」

「ええ――、私の専門だからね――」

「そしたら、テクスチャーは印刷で表現できるし、文字が白抜きだから文字の質も何か画用紙っぽいものか、布地の粗目のものに変えてみることにしようか」

「ただこの絵柄だとスキャンしたときにこの絵そのものの色味や質感は感じられなくなってしまいそうなので、私が一度持ち帰りますね」

 みどりは後日スキャニングされたデータを送ってもらえるように山吹に頼んだ。

 あおはその日、山吹のお陰で文芸誌の完成もめども出たような気がした。

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