雪の降る静けさの中で
文芸誌の校正をしながら、挿絵、目次や奥付、各見出やあとがきなどのデータは年末までにすべて揃えることができた。校正は改行、てにをは、誤字脱字、重複、変な言い回し、句読点など細部まで直しを加え、最終段階にあった。
頁数の問題で二段読みになってしまうのは仕方ないにしても、中身はほぼ決まってきていた。
あとは杜若の仕事のみ残っていた。
表紙と文芸誌のタイトルがいつまでたっても置き去りにされていた。様々な人材から拾われた作品が掲載される文芸誌であるから、これといったこだわりを出すのは難しいことではある。しかしながら8月に会議を開いて以来、杜若のこの文芸誌に対するアプローチは自発的なものを欠いているように思える。それはまだ中身の挿絵画家を紹介してもらったことしか彼女なりのアプローチが感じられなかったところにあるだろう。
「杜若さん、表紙を考えるって夏ごろに一度話してましたよね――?」
みどりは少し怒気をあらわにしていた。
――みどりの案でもいいんだけれど。
あおはそうも思っていた。
あおはあの雨の季節の不安感を年を越しても抱かざるを得なかった。
その年、東京は3日連続で雪が降り、2日目からは積雪が二桁になるほどの大雪となった。年始はじめの試験の時期に雪は降っていた。試験は大学院生にはあまり関係のないことであるが、あおはその日夜遅くまで研究室にこもって、文献を読みあさっていた。
つまりは、雪がやむのを待っていたのである。
全棟施錠の時間が近づいたので、あおは仕方なしに警備室へグラフィック研究棟の鍵を返し、裏門に近い北側の出口から外へ出た。
白銀の世界とはこういうのだろうか。誰かが歩いた跡も全く見当たらない。綿の塊のような積もった雪が目の前を覆っている。今朝からすっと降り続いていたため、長靴ははいているのだが踏み込むとそのまま足が抜けなくなりそうである。足踏みするよりも滑らすように歩みを進める。キャンパスには誰もいない。バスの最終は30分後といったところだ。星も出ない暗闇が空を覆っていた。しんしんと冷え込む外気をあまり吸わないように歩いた。
ーーみどりは今日、何をしているだろう。
ふと、そんな言葉が頭の中をよぎった。
あおのはこの大雪が非常なまでに寂しさを呼んでいることに気がついていた。なんとなく誰かに会いたい。そんなふうに思うのだ。
ーー早く家へ帰ろう。
バス停まではあと数メートルのところに来ていた。
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