11月のエスプレッソ

 女性たちは皆アイスティを頼んだ。あおだけエスプレッソを注文したので、不思議な注目を浴びた。

「コーヒー飲めるんですね?」

 一言発したのは東雲だった。この中でいま話を切り出しやすいのはこの人であっただろう。

「あたしも飲めねー、煤竹よく飲めんな」

 杜若もこの時期になるとだいぶん慣れてきていた。話し方や態度はどうにか気にせずにいられるようになったというべきか。

「普通に飲んでる人は飲んでるから普通じゃないか?」

 と、彼はありきたりな反応をした。

 あおはその会話の中でもみどりに対して意識的だった。彼女は確かに魅力的になっていた。明らかに他の二人を抑えて特別な格好をしていた。漆黒の飲み物を手にして眺めながら、あおはみどりを意識せざるを得なかった。しかしあおはそれを意識していることを忘れるかのように東雲に挿絵を見せるように促した。

 水性インクの多少にじみの出る筆致の挿絵である。エッシャー的なエッチング《銅版画》だろうか、しかしそれほど硬質でもない質感である。どちらかといえば湿り気のある日本人的なタッチであった。

 本格的なエッチングではないが、学生の出版物であるならこのくらいでもいいような気もする。

 しかし、彼はエスプレッソを原画へこぼしてしまいそうで、最後はそちらに一番気を取られていた。

 

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