木枯らしと柄物の刺繍

 あおはどうしたものかと思っていた。

 文芸誌の編集会議をするために今日は集まったのだ。それに集中するべきと思った。どことなく甘い誘惑ゆうわくが彼の脳裏のうりかんでいる。彼女の服装ふくそうを見るとこのまま手を握って連れ去っていってしまいそうになる。

 特徴的だったのは花やちょうがら刺繍ししゅうがレギンスにあったことだ。この子の姿が現れたとき、杜若かきつばた東雲しののめもあおを見て、頑張れと言った。誰から見てもわかりやすく彼女は変わっていたし、あおに対して好意的だった。

 4人はしばらく歩いてどこ入ろうか、などと話しているが一向に決まる気配けはいがない。あおもこの街は初めてだった。

 挿絵さしえの案が出来上がったと杜若かきつばたがメールをよこしてきたので、挿絵さしえの作家を呼んで話し合いをすることになっていた。

 この街にしようといったのはみどりである。3回生の秋はあおも覚えている。必修とゼミ以外はたいてい単位を取ってしまっているから、研究生と違って大学に来る様はほとんどない。大学からも遠いみどりは近いうちにこっちに来ることもないのだという。

 とするならばみどりが一番近い都心の街が一番全員が会いやすいだろうとんであおはみどりに任せるといったのである。

 つまり、この街はみどりが一番良く知った街ということだ。

「あの店にしませんか?」

 突然みどりがいった店はあきらかにデートスポットともいうべき店だった。

 杜若かきつばた東雲しののめも少しあきれた顔をしたので、あおは少し背筋せすじこおらせた。

 ――なにかの間違いならいいけど……。

「そこはダメだな」

 彼の口から言うことで他の二人をフォローするしかなかった。これではみどりがデート気分であおとこの街にいるような感覚になってしまう。

 あおは横目でみどりを見たが、どこかしらえた表情ひょうじょうをしていた。

 あおは仕方なしに目の前にある椿屋つばきやの看板を見つけて、そこだなと思って3人に声をかけた。老舗しにせ喫茶きっさ店だ。落ち着いて話すならちょうどいい店だ。

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