ビル風に吹かれるのは

 みどりが来たので、あおはなるべく顔を合わせないようにそそくさと歩みだした。

 実際時間がなかったのも確かである。あおは早いうちにファミレスでも喫茶店でも見つけて挿絵の案を見たかった。

 あおは先頭を歩いていると、みどりが前にはっと出て、

「あおさん、こんにちは」と言った。

 その顔は普段見せる顔とはずっと違う表情であった。何にも疑いを見せない表情である。

 あおはドキリとした。みどりはよく見るといつもとは違った格好をしている。大学とプライベートではやはり服装を変えるものなのだろうか――。いや、違う。明らかにみどりは意識的に服装を変えてみたのだ。

 服装だけではない。彼女は身のこなしから身なり全般、髪型らか化粧までわかりやすいくらいに変わって見えた。いつもの爽やかさというよりは

艶やかなる様相を呈していた。

 あおはどこかで谷崎潤一郎の刺青を思い出した。

 彫り師が肌のきれいな女に入れ墨をいれる快感と、入れ墨をいれて変わって行く女の態度に征服される男の快感を描いた小説である。

 彼はゾクッとし、地下街から表へでた。

 ――何が彼女をそうさせているのだろうか。

 一抹の不安をビル風は知らせていた。

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