駅の地下街で待ち合わせて

 改札付近では杜若かきつばた挿絵さしえの原画を描いた東雲しののめあかねがいた。みどりはまだいなかった。

「時間はまだですね」

 二人は静かにうなずいた。あおには二人とする会話がなかった。

 あおはみどりとかなり長い間連絡を取り合っていた。しかしあおにとって結局のところみどりにそのような感情が芽生めばえることはなかった。それはみどりにとって残酷なことだ。学部生の頃の記憶が彼の中で女性を遠ざけようとしている。

 彼女の愉快さは、あおにとっても愉快なことであった。それは間違いのないことだ。その愉快さを共有しているときは昔の記憶を忘れることができた。しかし、いざ平静を取り戻してみるとその感情はどこか深いところへ押し沈められた。

 ――あの白い顔。

 いくら印象深く良い思い出とともに記憶に残ろうとも、あの言葉の数々が全てを萎えさせた。とうぶん、女の人とは付き合えなさそうだと言う感情さえも彼はいだかざるをなかった。しかしみどりはそんなこと知る由もなかった。

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