寒さの中の温かいところ

 早秋そうしゅう、みどりからのメールには、みどり自身の文学ゼミでの作品について送られてきていた。

「あまり自信はないのですが、今回椛もみじ先生が私のを選んでくださいましたので――」

 と、さきにことわりがあった。

 確か文芸誌の掲載は4回生が中心のはずだった。3回生の彼女が選ばれているのは彼女自身が優秀な証だろう。刈安が目をつけるくらいであるから、頭の良さは本当のことだろうと思う。

「まず中身を確認してみますね」と返すと、

「恥ずかしいですけれど、よろしくお願いします」

 と、すぐに返事が来た。あおは彼自身が気づかない間にどことなく彼女に対しする好意のほか、少なからずの嫌悪感の両方を抱いていた。それは本当に不思議といった感情である。

 返事をしないままにしておくと、更にメールが送られてきた。

「院生からしたら全然大したことないと思います――」

 あおは彼女が恥ずかしさをいかに隠そうとしているかを読み取っていた。彼女自身もどことなく落ち着かないのだろう。彼女の小説はすみれひわと言う毒々しい官能かんのう小説家のそれを思わせる文体と内容だった。あおの抱く彼女のイメージからはかなりのギャップを持って現れたこの作品に、あお自身も羞恥心しゅうちしんいだかずにはいられなかった。

 しかしそのギャップからかあおはこう返していた。

「好きです、この作品。一見怖いけど、引き込まれる魅力があって――」

 そしてしばらくみどりからは返事はなかった。

 あおは彼女の小説があまりにも官能的かんのうてきであったことに驚いた。女性の欲情よくじょう赤裸々せきららなままに描かれてしまっている。読んでいるこちらが恥ずかしくなるくらいだ。原稿をおいて、あおは落ち着こうとした。身体の隅々から、血の流れが通ってくることがわかった。そしていつの間にかみどりからメールが来ていることに気がついた。

「でもやっぱりあおさんに見られるのは恥ずかしいですよ――」

 みどりとのメールのやり取りは夜遅くまで続いた。刈安が彼女の小説のイメージに春画を持ちよったことを考察ファイルから取り出した。挿絵のイメージが大正風情ふぜいの春画であることにセンスを感じた。

 あおはみどりのメールのひとこと一言に彼女の恥部ちぶが少しずつあらわになっていくような感覚を見出していた。そのためかはわからないまでも、彼は明らかにそわそわしていた。メールの文体に彼女の桃色の恥部ちぶがあらわになり、迫りくる香りと肉感を感じながらも、3回生のときに経験した女性のとげのことばの数々を同時に胸の中で感じ取っていた。

 双方そうほうの感覚がどうにもならにいとき、あおは自涜じとくした。明らかにあおはみどりに想いを寄せ始めていた。

 そして、みどりもあおとおなじ感情を抱いていた。みどり自身もメールのやり取りの中で、あこがれ始めた先輩との接近のために心がおさえきれず、よろこびの中で自慰じい行為に走っていた。

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