緑の季節
しかしこんなに人を好きになったのは久しぶりだった。はじめあおにはこの気の持ちようが何だったのかわからなかった。落ち着きが持てないまま部屋の中を右に左に歩き回った。〝なんだろう?〟と思ううちに、しかしすぐにもみどりのことを考えているということに気がついた。だがそうしているうちに、あおは不安になった、みどりはいったいどういうつもりなのだろう? 不思議だ。あれほど毎日やり取りを繰り返していて、ひとつも疑うことはなかったのに、こういう思いに駆られると何一つとして今までのことが嘘のようにも思える。いまは言葉ひとつとってみてもどういうことなのかわからない。大丈夫と言葉が浮かんで、しかし裏切られることを考えてしまう。わかっているような素振りで何か言うのも、非常におかしなことになりそうだ。
あおは歩いていた。風景には風だけがそこを通るのが分かった。確かにビル群や森があることが見える。そして確かにそうしたものたちが立ち誇っている地べたの上を快活に歩いているのだ。けれども、何にしてもそういったものは彼の眼には入らなかった。眼に映っているのは空だけで、その他に感じたのは、風が彼の身体を吹き抜けていくということだけであった。その日の空は素晴らしかった、風がうまいぐあいに彼の身体を運んでいるからに他ならなかった。しかしそれよりもあおはみどりと会えて、そうした周りの空気のことを感じられる気持ちになったことがその日のすべてだった。
あおは嬉しかった。ただ単に愉快なだけではない。あおが愉快なことにみどりも愉快になっていたことが彼をそうさせていたのだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます