木漏れ日のおちる階段を

 文学ゼミの終わり、教授に挨拶して研究室をあとにすると、そのまま棟をおりて丸太階段の小道に出た。周りが高い木々におおわれているため風が吹く日はこの道はすずしい。

 ――そういえば杜若かきつばたいなかったな。

 全く忘れていたことを思い出して、少しマズかったように思った。頭をきながら砂利が敷かれた丸太階段の道を一歩一歩ゆっくり降りていると後方から声が聞こえた。

「先輩――、一緒に帰りませんか?」

 みどりが後ろから追ってくるみたいだった。

 白い光がチラチラ落ちている木漏こもれ日の中を友達たちと離れてこちらに来るみどりを見ながら――

 ――そうか、彼女に似てるんだ。

 記憶に残るあおが3回生のときの彼女に似ている。

 みどりは青色のジャケットに膝丈ひざたけほどの白いスカートをひらひらと揺らしてくる。

 つかの間、あおには幸福な感じがあったが、すぐに押し沈めてしまった。

 最後は良くない別れ方をした。お互いの悪いところばかりが目についた。ベンチに座っているときの足の放り出し方が恥ずかしい、座り方がダサい、フラフラ歩くのやめてくれない? 食べ方汚いよ、顔疲れてない? 髭剃ひげそりなよ、あんまりくっつかないでくれる? 一緒にいるのも恥ずかしいよ。……

 彼女は同期生であった。ちゃんと就職していまは会社員をしているだろう。彼女もみどりと同じく肌の白いきれいな顔立ちをしていた。

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