あおとみどりと

「やあ煤竹すすたけ君、こんな時間まで居残っているなんて君も熱心だねぇ」

 彼が研究室のノックして入るやいなや教授はそう話しかけた。

「今日はちょっと刈安に頼まれている文集の編集会議をしていまして、」

「なるほど、そういえば刈安君の研究に君も加担していると彼自身から聞いていたけど、私も非常に楽しみにしているから頑張りたまえ」

「はあ」

 あおは少しばかり気重きおもに感じてくることがわかった。やはり刈安は学内で注目されているだけある。この企画に関してはまだ教授にははっきりとは話していなかったのだが、刈安の企画というだけで、グラフィック科にはうわさが広まっているらしい。実際には彼自身は何も動いていないのであるが――。

「ところで、今日はこんな時間に何をしに来たのかな?」

 教授は少し愛嬌あいきょうを見せるようにして話題をそらした。

「あ。あの、私の卒論と制作物をお借りしようと思いまして、」

「おお、あれは君、評判良かったぞ。彫刻科の学生の卒制にもなっているからな。学内これだけコミュニティを活用した作品はないという評判なんだ。グラフィックと立体が組み合わさって活動が進行することなんていうのは、学生時分ではあまり考えられないことだからな――」

「そんなことはありませんよ」

謙遜けんそんしなくてもいいと思うけどな。――ものは隣の資材室においてあるからとってくることにしよう」

「あ、では少し待っていてもらえますか」

「ん?」

「いや僕の作品を見たいという子がいるので、ちょっと呼んできます」

 あおはまた研究生用の研究室へ戻り、みどりを呼び出した。彼女はその華奢きゃしゃな身体をひらりと椅子から起こして教授の研究室へと歩みを進めた。

「お疲れ様です」

「ほお、藍鼠あいねず君も煤竹すすたけ君と知り合いだったか――」

「先生、藍鼠あいねずさん、ご存知でしたか」

「私の講義に出てる子だよな、たしか」

「はい」

「欠席も一度もないのと、文学部からの評判を聞いてますよ。君も学芸員志望であることもね――」

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