くすんだ色に練り混ぜられながらも

 杜若潤かきつばたうるみの最近のうわさはあまりよくないものがある。彼女はあおとおなじグラフィック科の研究生であり、科の業務中にもかかわらず、文学部の研究室に入り浸って、友人の研究生らとともに菓子を食い散らかして雑談にばかりふけっているというのである。そして業務後は研究室でちゅうハイの缶をけ、注意した教授に横柄おうへいに対応し研究態度もあまりよくないというのがもっぱらなもので、文学部からの杜若かきつばたのその苦情に際して、グラフィック科の教授陣も手を焼いているようだった。そうしたうわさというのは研究生というせまくて小さき門の中の門人たちからすると、あっという間にうわさとなり、杜若かきつばたは悪い意味で学内の有名人になっていた。


 あおは二人にコーヒーを入れた。

「インスタントだけどいい?」

「ありがとうございます」というみどりのことばに相反して、

「おう――」と言うのが杜若かきつばたの反応であった。

 さすがにみどりもいい顔をしていなかった。あおも少し、不愉快ふゆかいになりながらも、表現にはしないようにどうにか自身を落ち着かせた。

 少々の休憩きゅうけいののち、あおは会議をまた進行させた。

「そうしたら杜若かきつばたのこのワードからコンセプトをつめていこうか――?」

「そうですね。」みどりは少し気を取り直してあおに返事をした。

 杜若かきつばた装丁そうていデザインの参考文献ぶんけんに目を通していて無言だった。

「いい?――」

 あおは少し間をおいて返事を催促さいそくすると杜若かきつばた

「あ、ごめ」

 といった。

 あおは少しまた不愉快ふゆかいになったが、しようもないという感慨かんがいも浮かんでいるのだった。

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