火だねはいまから少しずつ消していかないと

 杜若かきつばたが来たのは予定した時間を1時間以上も過ぎた。夕暮れ近くの頃だった。

「おつー、ごめ。まった?」

 あおは少しかたを落として杜若かきつばたを見た。杜若は言ってしまえばギャルである。相変わらず派手はでな見た目をしている。しかしその性格に反して彼女は子供っぽさの見受けられない格好をしている。知らない教授はその見た目に少しだまされるが、少なからず文学ゼミの教授は彼女の粗暴そぼうに困っているようだった。

杜若かきつばたさん、お疲れ様です」

 みどりも少し気のない返事をする。杜若はすぐに大机のそばの椅子に座って荷物を下した。あおはそれを一瞥いちべつしてから、さっそく議題にうつることにした。

杜若かきつばたさん、いま藍鼠あいねずさんに見せてたんだけど、これ装丁そうていのデザインの見本、一応この本参考にしてるんだけどどうかな?」

「いいんじゃない?――。一応これコンセプトあげる前にいくつかワードまとめてきたよ? どうかな?」

 文献をさらっと見たあと杜若かきつばたはノートを広げてあおとみどりの前に置いた。ノートには本という字を中心にこう書かれている。

(白、しろ、空、あお、家庭、キッチン、廊下、夢、抽象的、冷たい、ひややか、親)

「――これは、どういうイメージのワード?」あおは杜若かきつばたに訊いた。

「多分、みどりっちはわかると思うけど、文学ゼミの今回持ち寄った小説のイメージって、家族とか家庭的なものが多いんだよねー。で、結構冷めてるっていうか、冷たい家庭を連想するおはなしが多いというかね。家族のわずらわしさみたいな?」

「そうです、だいたいこんな感じです」

 みどりもうなずきながら、杜若かきつばたのイメージを肯定こうていしたが、あおはこれからどう制作を動かすかを考え始めていた。

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