空と水と木と火と

 この日は久しぶりの編集会議を予定していた。研究室を先生からりてみどりと杜若かきつばたを呼んだのだ。やまない雨の日が続く季節があおには不安をさそっていた。

 みどりは予定の時間より早くにやってきた。

「先輩お疲れ様ですね」

「ごめんね。多分就職活動とか始まっている時期で、忙しくなっているのに」

「――いえ、だいじょうぶです。」

 みどりは少し怒っているような表情を浮かべて、やはり語尾を強調気味に話した。あおはクスリと笑って彼女を出迎でむかえた。

 彼女は研究室へ入ると少し落ち着かなかったが、あおが大机に並んでいるところの席へとうながすと素直すなおに近くの椅子へちょこんとその華奢きゃしゃな身を下した。

 あおは自席から見ていた参考文献さんこうぶんけんのいくつかをかかえて、みどりの座る席のそばに置いた。――そしてしばらく、ふたりで今回の企画について話しながら杜若かきつばたが来るのを待った。

「みどりさん。この装丁そうていだけれど、今回はこんな感じにしようと思うんだよね。」

「え、こんなにいい本にしていただけるんですか?――」

「まあ、あとはこのあいだ杜若かきつばたにあって話しておいたんだが、彼女がどうコンセプトを持ってくるかなんだよなあ――」

「杜若さん、文芸ゼミの研究生なんですけど、先生も手を焼いているみたいですね」

 みどりの反応はすこし、気をなくした。語尾が伸び気味になった。

 ――あおも“やはり”と思っていた。

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