机上のありとあらゆる景色

 その日あおは朝から研究室で装丁そうていデザインの本を読んでいた。彼の研究はアナログ意匠いしょう全般をあつうものである。紙、木、石、プラスチック、アルミ、鉄、銅、鉛、あらゆる素材の物体を媒体ばいたいとして訴える作品を作ることで、中でも装丁そうていの仕事は印刷技術の多様化たようかからあらゆる質感を扱うことが楽しめた。彼は学部4回生の時に鉛の本の彫刻と上製本じょうせいぼん装丁そうていのデザインに中身は自身の論文を製作品として卒業論文と合わせて提出し、教授陣の話題を呼んだ。刈安と知り合ったのもこの卒業論文の発表会の時だった。彼はあおのプレゼンはともかくとして、彼の制作品に大変な感銘かんめいいだいた。

「――今度、私の文芸誌の企画の装丁そうていをお願いできないか!」

 彼のその時の顔はあおにとって忘れられない。どの人よりも好奇心を持った、きれいな目と喜びにあふれた表情だった。

 そして紹介されたのがみどりだった。


 あおは時間まで新しい質感の紙、あるいは布、木材、それらの選定せんていを考えた。研究費をついやすわけにはいかなかったが、刈安もこの文集に研究費を使う予定であると話を聞いていたため、並製本なみせいほんから上製本じょうせいぼん意匠いしょうを変更し、さらには様々な素材を使って装丁そうていを考える余裕よゆうができた。あおはスケッチをしながら、雨の表情を気にしていた。

 ――変な天気だ。

 台風が来ているわけでもないのに、雨音あまおとが窓を叩いたり、静けさを取り戻したり、時折風がうなりを上げていた。

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