採光はガラス張りの中から

 話はおおよそ2年前に遡る。あおは学位を取得して修士課程に入ったばかりの頃だ。大学の食堂は南側が全面ガラス張りでその窓際まどぎわの一番奥にみどりはいた。見た目からすぐに彼はきれいな人と思った、細身でもしっかりとした佇まいで丁寧ていねい挨拶あいさつをする彼女を見ると、どこかよそよそしさを感じる。しかしそれは彼が持つ劣等感にさいなまれているからではなかっただろうか。彼は彼女を見た感じで身の丈に合わないような思いを抱いた。

「あおさん、刈安さんに会って話せって言われましたけど、何を話すんですかね」

 みどりはその言葉の語尾ごびをしっかりと止めて話す、それが彼女の人柄を表す特徴的ところだった。そして気のない時はあからさまに語尾がのびるのだ。そこが分かりやすくて面白い。

 話は刈安が企画した文芸誌の企画の話だ。しかしあおも実際まだこれから長いのだと考えると対して話し合うこともなくとりあえずの一年間の運びを話し合った。

「みどりさんは三年生だから発表会があってその時期まで忙しいだろ?」

 あおが突然切り出したので彼女は瞬きを数回繰り返しながら、どんな話をすのだろうかと少し尋ねるような口ぶりで話しだした。

「発表会はないんですけど、審査会があって、それまでは忙しいです」

「そうか――。で、いつになるのかな?」

「一月半ばです」

「じゃあそこから実動に入ろう。会期は三月なんだし」

「そうですね――」

 彼女も要領を得たようだったので、あおも少し安心して張っていた肩を落として、姿勢を崩した。

 それまでは企画の中身の内容が固まるまで、準備期間ということになり、お互い了解してその日は別れた。

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