五月の木漏れ日の中で


 藍鼠あいねずみどりと会ったのはいつのことだったか、もうだいぶ前のことでおぼえていない。煤竹すすたけあおは、絵葉書や年賀状のたぐいを整理しながらそう思った。みどりの写真がその中から一枚テーブルに山になったそれらを落としてしまった瞬間ひょいと顔を出したのだ。確かはじめは刈安かりやすに名前を聞いて会って見ることにしたのだ。だいたい刈安も勝手なのだと、今となっては思う。それもしかしあおの怠慢たいまんだ。断ろうとすれば断れたのだ。どちらともつかない気持ちのために、あのとき〝ああ〟と応えてしまったがために、役目を負わされたのだ。

 そのためか刈安が持ってきた案件はやけっぱちに進めることにしていた。しかし抜かりを見せるつもりはなかった。それにしても刈安はなんであおにあの案件を引き受けさせる気になったのか、正直なところあおにはわからなかったのだ。あお自身がしばし刈安相手に話をしていたためか、それとも周りが信用できなかったためか……。考えたところでよくわからない。あおはみどりの写っているその写真をひと思いにいてすててた。

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