強い風が吹いて空を雲が流れて

 その日、あおは研究室にいた。初夏の陽気だ。風が吹いていた。窓をたたくほどではない。木々が揺れているのが窓越しにわかった。

 バイブがなった。また刈安からだ。あおのデスクには冊子さっしのための台割だいわりが置かれている。彼はそれを取って見ながら携帯を手に取った。


 文芸誌掲載に関係している構成メンバーと、記載文章タイトル、掲載画像数とその大きさ、中身の要約はあらかじめ刈安からあおとみどりに伝えられている。

 実質この時期一番大変なのは刈安だった。

 刈安からのメールはこうだ。

「とりあえず、メンバーの確定と作品の方向性、企画は出揃でそろった。あとは藍鼠あいねずくんにその要点を送っておくから、この間、彼女が作ってくれた台割だいわりの第一案の中にさしこんでおいてくれ」

 あおは刈安から話を聞きながら、本のレイアウトについて考えていた。みどりが台割だいわりでこうしたいと提案をし、フォーマットを作成してきたので、中身の構成に関してはすんなり通りそうだった。あおは別段文学誌づくりをしたこともなかったから、デザインの経験のあるみどりの方がそれに関してはずっと了解をているだろうと思った。この文芸誌学部生が制作した文学、それからエッセイや論文などもふくめて公表してる文学部の目玉のイベントともなっている代物しろものである。

 そして、また別のタイミング刈安からのメールが届いた。

「それからーー」と続いて、表紙のデザインについていくつかべてあった。

 はじめは順調であった。しかしこの時に刈安が誘った杜若かきつばたうるみが本の表紙とその雑誌コンセプトの考案の段階で「やってもいいですよ」などと言うからややこしいことになったのだ。

 あおは同じ科にいる杜若かきつばたにも会うことにした。

 表紙とコンセプトをやるということはすべて杜若かきつばた冊子さっし全体のレイアウトをらなければならず、やがて中身のビジュアルまで全部をになわなければならなくなる。そのことが本当のところ彼女に分かっているのだろうか疑問だったからだ。

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