第2話 オレンジとブラウンのライト


2年前、新卒で入った会社で仲良くなった先輩が結婚する事になり、その式に招待してもらった。


結婚式はとても感動的でいい物だった。

だが家族のいる同僚達が一次会で帰ってしまっていた為、二次会は知っている人も少なく正直居心地が悪かった。

私も断ろうとしたが2ヶ月前に元彼と別れた事もあり、少しでも出会いの場になればと先輩がお節介を焼いてくれ出席する事になったのだった。


誰も居なくてもだいじょーぶ!私と話していればいいんだから。二次会の人数の出欠を取る際、そう言ってウインクしていた先輩は主役だったので私とは二言三言しか話す事はなかった。


二次会会場のお洒落なこじんまりとしたバーは席と席が近く人がごった返していた。


スクリーンに映し出されている映画をぼんやり眺めているのにも飽きたし、チャームもなくなり完全に手持ち無沙汰になった時だった。

一時間ちょっとは居たし。目の前のビールを飲んだら帰ろうかなとぼんやり考えていた。


「こんばんは。神崎さんの友達?」

そう言いながら正面にするりと座った男がいた。

そこには顔も覚えていない誰かが座っていたはずだったがいつの間にか席を離れていたらしい。

そんなにぼんやりしていたのか。


「えっと—そう、です。奥様の方の。会社の先輩なんです。」

先輩は籍を入れてからも会社で旧姓を名乗っていた為少し口籠ってしまった。そうだ。新しい名字は神崎。


私を気にするでもなく彼は言葉を続ける

「そうなんだ。俺はね、高校の部活の後輩なんだ。あ、旦那の方のね。大学は違うけどインターンシップで久しぶりに会って。第一希望の会社だったし、そのまま就職して同じ会社。」

「最近付き合い悪いなって思ってたらいきなり結婚する!って言われて。で、今って感じ。」


首をすくめて両手のひらをこちらに見せる芝居がかった仕草が妙に似合っていて思わずクスリと笑う。

「全く、昔っから思い立ったら一直線で突拍子もない事よくする人だったけど今回は流石にびっくりだよ」そう言いながら一口酒を含む。


鮮やかな深い緑のネクタイを店の中のブラウンとオレンジのライトが照らしている。

持っているロックグラスに映えて綺麗。飲んでいるのはウイスキーだろうか。


考えながら見ているとバチッと目があった。

「好きなんですね、神崎さんの事」

取り繕うように視線を自分のグラスに移しながら言う。


ブフッ、突然吹き出した音にびっくりしてすぐに視線を戻すと彼はおしぼりで口を押さえ私に手のひらを垂直に向けていた。

「待って、俺の恋愛対象は女性だから!勘違いしないでね!まじで仲良い先輩なだけだから!」

彼はそのまま笑い出した。人懐っこい笑顔。


一気に顔が熱くなる。

「や、分かってます!変な言い方してごめんなさい。仲良いんだなーと思って。でも好きなのは間違ってないでしょ?ラブじゃないけど。」

早口で捲し立てる。


やばい。結構酔ってるのかも。

思わず砕けた調子になっちゃった。失礼だったかな。だめだ、もう帰ろう。

「すみません。私そろそろ帰ります。素敵なお式でしたね。では、失礼します。」


どうせこれを飲んだら帰るつもりだったのだ。

ビールをグッと煽る。

そのまま彼の方は見ず

「えっ、ちょっと、」

と言う彼の声を背中で聞きながら店を出た。


先輩には飲みすぎて体調が悪くなったとLINEを入れて置こう。

一本通りを出れば駅がみえてくるはず。


私は店に背を向けて歩き出した


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