自分の気持ちさえみえない

@mizutuki

第1話 始まりの始まり

秋の終わりと言うより

冬の始めと言っていいような寒い日だった。


半年ほど早く転勤先で生活を始めていた彼が駅のホームに迎えに来てくれていた。

「悠貴!」

遅い時間だったからなのか人もまばらですぐに見つけられた。

私も見つけてもらいやすいよう明るいベージュのコートを着ていたが、これならお気に入りのいつもの黒いコートでも良かったのかも。


「久しぶり、美智。迷わないで来れた?」

彼は持っていたキャリーケースを奪いつつ、ちょっと照れて言った。

たった1ヶ月前に会ったばかりだが悠貴の笑顔と優しさが懐かしく感じる。

それだけ待ちに待った長い長い1ヶ月だったのだ。


約半年の遠距離中、元々2人で同棲していた関東のアパートにそのまま美智が住んでいたのもあり、そちらで会うことが多かった。

こちらに来るのは今日が初めて。


促されるまま軽くここまでの道のりや父からの言伝などを話す。話しながらまだどちらに迎えばいいか分からない駅中を彼の半歩後ろを歩く。


エスカレーターを降り外へと続く自動ドアを抜けた。

ロータリーに車をつけておいてくれたらしい。


悠貴の車は、と探そうとした瞬間

思考停止。いや、凍った?

「えっ...寒い。やばいぐらいに寒い!!」

思考停止解凍後初めて出た言葉がこれだった。


気温は確認してきた。でも。想像でなんとなく覚悟していても肌に直に感じるのは全く違う。

予想の数倍上をいく語彙力が下がるほどの寒さ。

というか、新幹線の中も申し訳程度に並んだお土産屋さんがある閑散とした駅中も暖かい方だったので覚悟自体を忘れていた。


そうだ、私は北海道にきたんだ—


「だから巻いておいて正解だったでしょ?美智はすぐ大丈夫って言うんだから。」

ダウンのジッパーを一番上まで上げつつ彼は言う。

エスカレーターを降りながら自分のしていたマフラーを取り、半ば無理矢理私に巻いてくれていたのだ。

「本当だね。ありがとう悠貴様!」

しつこいだろうが本当に寒い。

おちゃらけながらも半分本気で感謝だ。


車遠い!ごめんって!悠貴様って言ったの取り消し!

そんな軽口を叩きながら私達は早足で車に乗り込んだ。

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