中 へんてこなしょうじょとかんらんしゃ

 なんとかホームベースの漕ぐボートに乗る事ができました。「どこへ向かってるの」「あいつのいる場所」「いやどこ」


 無視されました。  


 ホームベースはもう100パーあの子の味方で、だけどわたしは別に全く知らないししょーじきホントにどうでもいい。でもこんだけぐちゃぐちゃしたもん見せてきて何もしないなんて選べなくない?あぁわたしこのままだとホームベースに殺されちゃうだろうな多分。あいつ、わたしがここにいるぞって事すら塗り潰してきそうだし。


「ねぇなんで塗り潰してるのわたしたちの町」今だったら教えてくれそうだったので思い切って聞いてみました。


「あいつがこんなくそみてぇな世界と思うから塗り潰してるんだよそれが嫌だったらあいつを説得しろよほらもう時間はない遊んでる暇なんてないぞ」「遊んでなんて」「そんなもの振り回して何が遊んでないだ」「これは蛇太郎だよ」「あそ」「そいえばさ全部塗り潰したら世界はどうなるの」「そりゃ消えるんだ時間も空間も宇宙も概念も全部」「なんで他人のわたしが」



「この世界を救うのはいつも知らない他人だ。他人じゃなきゃあいつを救えない」  


 

 ほらよとホームベースが言うと蛇太郎を掲げるだけじゃてっぺんが見えない大きな観覧車の前に着きました。入場ゲートはなくてわたしがゴンドラの前に立つと自動ドア式で通り過ぎない内に入りました。ホームベースはいつ間にかどこかに消えてました。


 赤いソファー席は低反発で心地良くてどーせ外は真っ暗だしちょうどいいと眠る。









「優しいお姉さん、お姉さんはここでなにしてるの?」

 撫でる様な声で目を覚ますと、反対側のソファー席には黄色い帽子を被った少女がいました。


「眠ってたのよ見りゃ分かるよね」「なんでそんな喧嘩口なの?」「低血圧」「自律神経整えてかないと」入浴剤をくれました。みかんの匂いのするやつでした。「どうも」


 年相応な満面笑顔をみると同情したくなる。レイプしたクソ人間を殺したことだって分からんくない。だけど、それじゃこの世界に終わりなんてないのでは?説得しろってどうしろと?


 少女は塗り潰されて真っ暗な外を満天の星があるみたいに眺めてました。「ちょっと前に親の財布から金をこっそり盗んで遊園地に行ったの。観覧車に乗ってる時が一番楽しかったずっと空を回れたから」「……」「まあその後バレてぶん殴られたけどね」「そりゃ自業自得じゃ」「そーだよねはは」


 変わらない表情でわたしの方をキュッと向きました。


「わたしはねお姉さん。誰かの思い出に少しでも残って殴られて犯され続けるくらいならこんな世界なくなってしまえばって思ってたの。そしたらホームベースが空から降ってきたのよ」「その猫にイミフな事言われて途方に暮れてんだけど」



「ならちょうど良かった!」

「ん、どして」



 笑みが深くなる。寒気がしました。



「だってそうでしょ」




「ここなら誰もいなくてずっとずっとずーっと2人だけだよ!」









「まぁ確かに」「ねぇ知ってた?この観覧車ってずっと止まらないんだよ」「エネルギーはどこから」「知らない」吐き気がしてきました。



「この世界なら悪いことしたことを誰にも言われないしずっとお姉さんと一緒にいられる」「……」「実際悪いことしたなんて思ってないよだってあいつが悪いんだもんだけど誰が信じてくれるのそんなことわたしがわたしを信じてすらいないのに!」「……」「ニュースになったら学校でいじめられちゃうかもしれないしされなくてもきっと変な目で見られるよ」「……」「わたしが忘れてもきっと誰かの思い出になっちゃうそれが耐えられないだからずっといたいのこの真っ暗なかえりみちに」


 沈黙の回転は止まらない。  


 






 思い出。わたしからしたら記憶の棚もしくはアルバムにしかないもの。嫌な思い出といえば少女漫画を描いてるのが母親に見られたこと、もっとアレな漫画が机の上に綺麗に置かれていたこと。良い思い出はまぁ、それなりに色々と。振り返ると私の思い出も大したものはないしぼやぼやであんまし覚えてない。



 だからこそ、説得するなんて大それた事はできないかもしれないけれど、何を言うべきかを決めました。 自分のためにも、この子のためにも。

 

「ねえ」 「うん?」


 蛇太郎を強く握る。



「思い出ってなんだと思う?」



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