第13話味のない唐揚げ。
「鶴味、今日はありがとな」
遊園地からの帰り際、俺はそんな言葉を口走った。
「いいよ、お礼なんて。理由はわからないけど、お兄ちゃんの凹んでる姿を見るのが嫌だっただけだから」
本当に琴美は優しい。俺は琴美に何もしてやれなかったのに琴美は俺のことを心配してくれている。
空気が少し重くなるのを感じた。それとともに何度も鶴味のあの言葉が脳裏をよぎる。
何度も怖くて震える自分の腕を強く握りしめ、俺は気持ちを整理するため深呼吸をした。
自分は今まで何もできていなかった。してこなかった。今度は俺が琴美を助ける番だ。
俺は自分の手で自ら頬叩いた。
「お、お兄ちゃん!?」
「待ってろ琴美! 今度は俺の番だ!」
そう言うと、最初は少し戸惑っていたが俺の真剣な眼差しに笑顔を見せてくれた。
「家で美味しいご飯を作って待っててくれ」
「うん!」
俺は琴美の笑顔を見てからある場所へと走っていった。
「はーい」
チャイムを押して聞こえてきた声。その声の主は――
「鶴味。話をしよう」
「……」
静けさのあまり、汗が喉を蔦るのを感じた。
「待ってて」
そういった鶴味の声は今まで聞いた事のない、冷たい声だった。
数分後、明るい服装をした暗い顔の鶴味が出てきた。
「……」
「……」
「鶴味。なぜ、琴味をいじめるように指示したんだ」
「……こっち」
鶴味はそれだけ言ってどこかに歩き始める。
「……」
俺も黙って後を付いて行った。
「ここ覚えてる?」
そう言って立ち止まったのは、なにもないただの空き地だった。
「ここ……確かお前の好きだった唐揚げ店があった場所だよな」
「そう。そしてここがすべての始まり……」
その時の鶴味冷たい声、そしてその背筋の凍るような狂気的な目を俺は忘れることはないだろう。
「十年前のあの日から始まった初恋の話をしてあげるね」
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