第9話唐揚げの美味しさの真実。
「美味し〜」
「美味しいですね〜」
琴美と尾野美杏が俺の作った唐揚げを共に幸せそうな顔で頬張る。
「俺の作った唐揚げ。それは色々な唐揚げ店を食べ歩き、試行錯誤の後についに到達した最高の唐揚げ! それが美味くないはずがない!」
「さあもっと食ってくれ!」
「お兄ちゃんお行儀わるいですよ」
「あ、すいません」
自身満々なのはいいとしても、流石に椅子の上に片足を乗せてドヤ顔で唐揚げの説明をするのはやりすぎた。二人ともすまない。
「……お兄ちゃん」
「ん? どうした?」
最初はお兄ちゃんと呼ばれることに違和感を感じていたが、今は違和感は感じなくなった。というか嬉しい。
「実は……お兄ちゃんが私の事ずっと心配してたことわかってたんだ」
琴美は箸を止め、俺に向き直る。
「私のイジメをたまたま見ていた子がいてね、その子は気の弱い子で、その時は物陰から見てることしかできなかったって言ってた。今思えばその方があいつらの標的にならないし正解だったと思う。でも、その子は何回も謝ってくれて、その子がずっと私を支えてくれた」
琴美は震える声で続けた。
「ある時ね、脅されてることをその子に話したの、そしたらその子が『お兄さんは絶対心配してくれてる。ただ、お兄さんは泣いてる琴美ちゃんになんて声をかければいいかわからないだけ。きっと琴美ちゃんがこの事を話せばお兄さんは琴美ちゃんを守ってくれる』って、その言葉に励まされた。でもその子はその後すぐに引っ越していちゃった」
その友達の言葉を聞き、俺はその時の何もできなかった自分への怒りがこみ上げてきた。
「でも私、それを行動に移せなかった。お兄ちゃんを巻き込むかもしれないって、怖くて何もできなった……」
「そんな事ない!」
その時、一緒に聞いていた尾野美杏が琴美を自分の胸へと寄せ、優しく抱きしめた。
「琴美ちゃんは一人で頑張ったじゃないですか。一人でからあげ先輩をまもったじゃないですか」
「う……うう……」
琴美はこらえきれなくなった涙を尾野美杏の胸の中に出し切り、そのあとソファーで寝てしまった。
「よっぽどからあげ先輩の事が好きなんですね」
「ああ。嬉しい限りだ。ところでお前、時間大丈夫か?」
「あ! からあげ先輩私そろそろ帰ります! それじゃ!」
「ああ。 今日はありがとう。 気をつけて」
尾野美杏は玄関先でニコッと笑い、急いで帰っていった。
俺も疲れていたため恥ずかしながらも「おやすみ……琴美」と寝ている琴美に声をかけそのままソファーのそばで眠った。
「おにい――」
琴美の声が聞こえる。
「お兄ちゃん」
日差しが俺を夢の世界から現実へと戻しにくる。
「おは……よう」
「もう遅刻寸前! 急いで!」
「は!? 尾野美杏は!」
「さっき『今日は朝、病院に行くので起こしに行けない!』ってメールが!」
「マジか!」
俺は急いで準備をし、唐揚げを一つ口に入れ「琴美じゃあな! 気をつけて!」と言って玄関先で別れた。
やべー! これじゃ遅刻するー! あれ?
学校近くまでくると、見覚えのある人影を見つけた。
「鶴味ー! 遅刻するぞー!」
「あ! こうた!」
元気な様子でこちらに近づいてくる。
「おはよ」
「おはよ! って幸田声枯れてるよ?」
ああ、昨日叫んだからな。
「昨日実は、お前も知ってると思うが琴美のイジメのことで仲直りしようと思ったらこうなった。結果的には仲直りしたからいいんだがな」
「イジメね。ほんとに辛かっただろうね」
鶴味は琴美の気持ちをわかってくれてる。それだけで嬉しい。
「琴美ちゃんのイジメはほんとに酷かった。幸い、もう一人の子はイジメられなかった。被害者が増えなかったのが不幸中の幸いだね。まあ、あの子は引っ越しちゃったけど……」
……ん? 鶴味今もう一人の子って……しかも引っ越したって。琴美の言ってた子だどしたら、あの時イジメの現場にいた子のはず。
その時、背筋が凍るような寒気と怖さが俺の足を一歩引かせた。
「琴美……お前」
「ん? どうしたの?」
「あの時、お前もイジメの現場にいたのか」
考えたくない仮説。でも、あの女の子はイジメの現場から少し離れたところにいた。イジメた奴らに見つかるはずがない。でもなぜ琴美はそれを知っている。
「……私、イジメの実行犯だから、あの時近くに居たんだ。そして、全員を見ていた」
冷たい風と共に、静かな道に始業の鐘がなる。
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