第8話記念すべき日には唐揚げを。
「からあげ先輩なら大丈夫です! 私信じてますから!」
「ありがとう……」
心臓の鼓動が早くなり、声と手が震える俺を尾野美杏は勇気づけてくれた。
「よし、行くぞ……」
久しぶりに面と向かって話をするのは正直怖い。でもここで引き下がるのは兄貴失格だ。俺は必ず琴美と仲直りする。
琴美との一年間を、今日から取り戻すために。そして、琴美をイジメた奴を明らかにするために……。
「琴美入るぞ!」
「あ! からあげ先輩ちょっとまってくださ――」
俺は扉を開けるとそこには一人静かに読書をする琴見と、なんの変哲もない綺麗に整理された部屋が広がっていた。
「よかった……」
尾野美杏は胸をなでおろし安堵の表情を浮かべた。
「やっぱり来たんだ……」
「ああ。仲直りをするためにな」
「……」
静けさの中、汗が滴るのを感じながら拳を強く握る。
「俺は、ずっとお前に誤りたかった! 一年前からずっと、お前に誤りたかった」
「……」
琴美はうつむき、静かに俺の言葉を聞く。
「お前のイジメを知った日、俺は何も言えなかった。怖かったんだ」
あの日の何もできず、ただ琴美の部屋の前で立ち尽くす自分が頭の中で映像のように映し出される。
「俺はずっとお前に言ってやりたかった、ごめんって。そしてお前を守ってやりたかったんだ、お前をイジメたやつから」
涙を必死に堪えながら言葉を続ける。
「今更遅いかもしれない。何もしてやれなかった俺に対して怒ってるのもわかってる。でも俺は――」
「私怒ってなんかない!」
その時、今まで下を向き、黙っていた琴美が顔を上げ涙を必死に押し殺しながら俺にそう叫んだ。
「私も仲良くしたい! もっと遊んで、買い物して、一緒に寝て、一緒にからあげ食べたい! でもできない! そんな事したら、あの人達があんたに何するかわからない! だからできない!」
そして琴美は続けて、イジメられた奴らに俺と仲良くすれば俺をイジメると脅されたことを話してくれた。
そいつらが俺をイジメる? そんなの――
「やれるもんならやってみろー! バカどもがー!」
俺は窓を開け、ベランダから大声で叫んだ。
「俺に文句があるなら俺に直接かかってこい! 妹を、琴美を巻き込むな! 直接俺に来ないやつに! 俺が負けるわけない! 安心しろ琴美いいいいいいい!」
「そうですよ琴美ちゃん! からあげ先輩は負けません!」
俺に続き、尾野美杏もベランダに飛び出して俺を信じ、琴美のためにそう叫んでくれた。
「二人共……よし!」
琴美が立ち上がり、こちらに近づいてくる。
「お兄ちゃーん! 私は信じてる! 私をイジメた奴らに負けないって! だって私――」
琴美は身を乗り出して空高くこう叫んだ。
「お兄ちゃんが! 大好きだからあああああ!」
「……!」
「ふぁに!」
驚きの告白に俺は変な声を出してしまった。
「お兄ちゃん! だーい好き!」
俺に抱きつき、そのまま押し倒す。兄と妹という関係なのはわかっているだろうが、琴美はそんなことはお構いなしに俺に熱いキスをする。
「I LOVEおにーちゃん!」
琴美はその可愛い笑顔を俺に見せてくれた。今日は尾野美杏との約束どうり、ごちそうを作ろう。琴美と仲直りできた記念すべき日だからな。
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