第7話熱き唐揚げ。
「……」
「……」
尾野美杏と琴美は泣きじゃくり互いに抱き合ったあと、冷静になり、
「あ、あの……」
「……」
「このことは内緒にしておくので!」
「あっちょ、まだ話は……」
尾野美杏は恥ずかしさのあまり話の本題を忘れ、そのまま幸田のいるリビングへと戻ってしまった。
「からあげせんぱーい!」
「わっ! って、尾野美杏か」
二階からダッシュで降りてきた尾野美杏に少しビックリしたが、その後すぐにお茶を入れ、二人で話し合うことになった。
「私は素直に、自分が今どういう気持ちなのかと、自分が琴美ちゃんとまた仲良くしたいということを話しました。」
「それにしては長かったような……しかも上からドンって」
「なんにもないですなんにもなかったです!」
慌てた様子を見せた尾野美杏が少し気になったが、深くは掘り下げなかった。
「そのあと何か話したのか?」
「いえ、何も話していませんが泣いて抱き合ったりはしましたよ」
「え! あの琴美が泣いたのか!?」
「うわっ!」
琴美の普段の様子からは『泣く』という事が想像できず、思わず勢いよくその場にたってしまった。
「ま、そうなりますよね」っと尾野美杏に言われ、すぐに冷静になった俺はゆっくりと座った。
「そうなのか……」
「はい。結果的に言えば……あれ? これって私が仲直りしただけで、なぜ先輩と喋らないのか理由がしっかり聞けていませんでした……よし!」
何かを決心したのか、力強い声とともにその場に勢いよく立ち上がりこう続けた。
「私もう一度行ってきます!」
そう言ってもう一度二階へ行こうとする尾野美杏に、「待て!」っと腕を掴み止める。
「なんですか!」
「俺も……今度は俺も行く!」
「でも、からあげ先輩は臆病の意気地なしさんで、なら私が話して二人を仲直りさせてあげないと!」
「そうだよ、俺は臆病で意気地なしなやつだ」
「なら――」
俺は尾野美杏の言葉を遮り、溢れんばかりの気持ちを、あの日から後悔し続けた気持ちを尾野美杏にぶつけた。
「俺は! 琴美のイジメを聞いた時、あいつに何も言ってやれなかった! あいつになんて言えばいいかわからなかった! 今回だって尾野美杏に任せっきりで何もしようとしなかった! でも、あいつ泣いたんだろ? それだけ苦しかったってことじゃないのか? なら、俺が行ってやらねーと、あいつまた泣いちまう」
俺は拳を握りしめ、熱くなる、色々な感情の入り混じったその気持を全て一言につめこんだ。
「妹が泣いてる姿をただ見てるだけなんて、そんなの兄貴じゃねえ!」
そう心の底から叫んだ。
「からあげ先輩……」
「一緒に、琴美のところにいって仲直りをしよう。その後二人の好きなもんなんでも作ってやるよ」
「からあげセンパーイ!」
尾野美杏が目頭を真っ赤にしながら俺の胸に飛び込んできた。
「からあげ先輩! かっこいいです!」
「あ、ありがとう……」
満面の笑みで抱きついてきた尾野美杏に少し可愛いと思ってしまった。
「私、今ので勇気が出ました! 行きましょう! そして仲直りしましょう!」
「ああ」
二人は共に覚悟を決め、共に琴美のもとに向かった。
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