第2話キスと唐揚げにはレモンを。

「そういえばさ、琴美ことみちゃんとは最近どうなの?」


 尾野美杏が作ってくれた料理を黙々と食べていると、箸を止めた尾野美杏がそんなことを俺に聞いてきた。


「妹とは全く喋ってない」


「……そうなんだ」


 尾野美杏と琴美は中学の時からの同級生で、同じテニス部に所属していた。

 だが高校に上がるとあまり喋らなくなり、俺の家に来ても挨拶を交わすだけと聞いている。


「やっぱり、あれが原因なのかな」


「……」


 尾野美杏の言葉に何も返すことができなかった。

 俺が高校に上る直前、あいつは酷いイジメにあった。

 理由はわからない。ただ、


「……」


「……あ、あの――」


 尾野美杏が何か言おうとした時、机に置いていたスマホが震えた。


「……すいません唐揚げ先輩、私帰らないと」


「ああ。心配させて悪かったな」


「私こそ、すいませんでした。それじゃ、また明日」


 最後にニコっと笑って、急ぎ足で帰っていった。無理に作らせてしまったあの笑顔に、心が痛くなる。

 俺は食器を片付け、風呂に入りに風呂場に向かうと、


「琴美……」


「おに……何?」


 いつもの俺を睨むような鋭い目。

 俺は一歩引いてしまう。


「なあ……少し話さないか?」


「……」


「琴美!」


 琴美はその場で少し立ち止まり、俺の避けるように下を向いて自分の部屋に戻っていった。

 琴美、どうしてなんだよ。


 俺は風呂に入り、その後は琴美には話しかけず眠った。


「唐揚げセンパーイ! あさですよー!」


 明るく元気な尾野美杏の声に俺は起こされた。


「尾野美杏か。今日もご苦労さん」


 こんな感じでいつも俺は尾野美杏に起こしてもらっている。たまには何かお返ししないとな。


「ねー唐揚げ先輩」


「ん? なんだ?」


「いつも頑張ってる私に、キスしてください」


  今日の尾野美杏はいつもどうりの尾野美杏に戻っている。昨日のことがあったから少し心配していたが、大丈夫なら俺もいつもどうり――


「ああ。そうだな。してやる」


「そうですか。では」


「え、ちょ――」


 俺に有無も言わせず、尾野美杏は俺の唇を奪った。

 柔らかい体が俺に触れる。お互い体温が高くなっていくの感じる。

 自分の心臓の音がだんだん早くなっていく。


「キスってレモンの味じゃなかったですね」


 限界に達したのか、唇を離し、下を向く。


「……あの…私……」


 驚きのあまり言葉が出ない。モヤがかかったように目の前が見えづらくなる。


「唐揚げ先輩。私……琴美さんと唐揚げ先輩を仲良くさせてみせます!」


 目の前はまだモヤがかかったかのように見えづらく、受け答えもできない。

 だが、尾野美杏のその言葉だけが聞こえた。


「それじゃ、私先行ってます!」


 そう言って尾野美杏は勢いよく部屋を出ていった。


「あいつなんなんだよ。急に琴美と俺を仲良くさせるなんて……」


 完全に動けるようになり、少し立って朝ごはんを食いながら一人言を言っていると、


「何いってんの? 気持ち悪い。さっさと学校いったら?」またしても琴美がいた。


「……」


「何?」


 俺を睨むような目。いつもならここで一歩引いている。

 でも、今日はそんな事は気にしなかった。


「琴美、お前……なんで昨日から俺と会話してくれんだよ」


「……!」


「今までなら俺が何を言っても喋ってくれなかったのに」


「は!? 別になんだっていいでしょ! 私学校行くから!」


 そう言って琴美は家を飛び出して行った。

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