1992年5月4日(月曜)多笑、悪童に出会う。 

 「あんまり、酷かったから」

多笑は顔をしかめて、言った。


「損やで」


「損?」多笑は暴馬をじっと見た。


暴馬が大きく頷いた。


「だってあんなんカスやで。最悪殺してしもて、刑務所に入らなあかんよぉなってもたら、お姉さんの人生損やん」


 なるほど。ちゃんとしているではないか。

向こう見ずの暴れん坊のようでいて、中々冷静な目も持ち合わせている。

多笑は暴馬に好感、そして得体の知れないカリスマ性を感じた。


「そうやね。あんたの言う通りや。確かに損やわ」

多笑はそう言った後、

「ぎゃっ!」と絶叫した。

暴馬が背後から腕を回し、多笑の両乳房をわしづかみしてきたのだ。


「ちょっ、ちょぉ、あんた、何しよんの!」


「いや、おっぱい大きいな思て」


「あほ! やめ!」


「なぁ、俺、女の人のおっぱい初めて触ってんけど、バリやらかいな」

暴馬の声音には邪気の欠片もなかった。


「だから、あんた」


「惚れてん」暴馬が多笑の耳の傍で真剣な響きを含み、そう言った。

多笑は心臓が跳ね上がり、思わず黙った。

「今日、店に入った瞬間、この人や、思てん。マジやで。せやから、お姉さん、俺の初めての女ンなってくれ。お姉さん以外、俺は考えられへん」

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