1992年5月4日(月曜)多笑、悪童に出会う。 

「あ、はい。怖かったですけど、なんか面白かったです」

明美が笑顔で首を傾けた。


「面白かったって」


「なんか刺激的で、あ、あたし、仁義なき戦いとか大好きなんです」


 多笑は苦笑した。この子も中々変わっている。


「明日もよろしくお願いします!」


「お疲れさん。ありがとう」


明美はお辞儀をして、店を出ていった。


 その後、多笑は暫く、暴馬の寝顔を眺めていた。

この子をとんでもない悪魔の化身みたいに噂をする人も居るが、こうして無防備な姿を見ていると、そんなに悪い子ではないのかもしれない。

多笑は暴馬を可愛いと思った。


 やがて、暴馬が上半身を起こし、「頭、いったぁ」と、こめかみを揉んだ。


「飲まれへんくせに無理に飲むからや」

多笑は水が入ったコップを暴馬に渡した。


「サンキュー」と暴馬はコップを受け取り、水を一気に飲み干した。


「あ、せや」

多笑が言った。

「言い忘れとったけど、さっきはありがとうね」


 暴馬は多笑をじっと見てから、「包丁」と言った。

「包丁であいつらの事刺す気やったやろ」 

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