1992年5月4日(月曜)多笑、悪童に出会う。
「これでも、だいぶ飲めるよぉになっとん、なっとん……飲める……よぉに」
暴馬は座敷で崩れ落ち、大いびきをかいて、動かなくなった。
悪ガキとは言え、未成年飲酒を黙認してしまった。
ちょっとまずいな。
閉店後、暴馬をそのまま座敷で休ませたのはそんな罪悪感からだった。
弥太郎と陽介は店の常連客達と三宮へ繰り出していった。
キャバクラに行くらしい。
弥太郎と陽介が店を出る際、「あの」と、多笑はいびきをかく暴馬を指差した。
「大丈夫、大丈夫、ウマちゃんは不死身やから」と意味不明な返答を陽介がして、上機嫌な酔客集団は『多笑居』を出ていった。
座敷席の上がり框に腰を掛け、水が入ったコップを乗せた盆をテーブルに置く。
多笑から見て、座敷席の左側にある物置兼更衣室から明美が出てきた。
明美は仕事中バンダナで覆っているセミロングの髪を下ろしていた。
明美の髪の色は赤に近い茶色だ。
90年代に入ってから、若者の間では茶髪が流行らしい。
「お先です」
「今日は色々お疲れさんやったね。ホンマ、ごめんね」
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