1992年5月4日(月曜)多笑、悪童に出会う。 

「兄ちゃん、わしの奢りや、飲んでくれ」「なんでも食いたいもん言うてや、すんません、モダン焼き3つ、兄ちゃんらに」「灘の地酒、兄ちゃんらに」

競うように皆が暴馬達に奢りたがった。


 弥太郎と陽介は上機嫌で灘の地酒『瑞祥白鹿』を口に運んでいる。ガキのクセにかなりいける口のようだ。


「ウマちゃん、無理しなや」

陽介が言った。暴馬は揺れながら、瑞祥白鹿が入ったコップを口元に運んでいる。

「ら、らい、大、大丈夫や」

暴馬は瑞祥白鹿を舐めただけで青い坊主頭が真っ赤に染まり、呂律が怪しくなっている。

「せっ、せっかく、みんなが奢ってくれてはんねやから、飲まな、わる、悪い、わ」


「ホンマ、信じられんよな」

弥太郎がマルボロの煙を吐きながら、呟く。

「えぐいくらい喧嘩強いウマちゃんがアルコールとニコチンはからきしあかんねんから、わからんもんや」


「しかも、家、酒屋やのに」

陽介が笑って、言った。


「あ、あほ」暴馬の揺れが激しくなり、壁に頭を打ちつけた。壁が凹んだ。ある意味、多笑にとって、その夜一番のビックリ箱だった。 

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