1992年5月4日(月曜)多笑、悪童に出会う。 

「このクソガキ」

角刈りが喚き、血走った眼を暴馬に向けた。


「早ようおいでえな」

暴馬は体を半分だけ外に出し、チンピラ達に手招きする。

「おっさんら、だいぶん、うっといから、全員、苅藻川(カルモガワ)に放り込んだるわ」

苅藻川とは店の前を流れている川の名称だ。


 暴馬がおもてへ出て行く。角刈りとサングラスは倒れているオールバック細目と眉無しに肩を貸し、暴馬に続いた。


「6分」

弥太郎が店の壁に掛かる時計を見上げて言った。


「甘いな、弥太郎」

陽介が人差し指を弥太郎に向けて、首を横に振った。

「ウマちゃんやで。普通の物差しで測ったらあかん。3分や。3分で全員ノックアウトや」


 暴馬は1分で店内に戻ってきた。

弥太郎と陽介が呆れ顔で口をあんぐりと開けた。

「サングラスのおっさんシバキ倒したら、全員ソッコーで逃げて行きよった。バリあっけない」

暴馬は言って、大きなあくびをした。


 その後、店内に大きな拍手が湧き起こった。

突如現れた、若く、圧倒的な強さを誇るヒーローに皆胸が熱くなってしまったようだ。


 その日の夜、お好み焼き店『多笑居』は暴馬達を中心にした大宴会が始まった。

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