第37話 ANOTHER HEAVEN その15
「ショックなのは察するぜ。良い方向に積み上げてきたものが急に崩されたんだからよ」
「まっ、待ってくれ! 兄貴!! だとしたらーー」
「話は最期まで聞け。薫」
兄貴のその静かながら、強い圧を込めた言葉に俺の口はそれ以上開かなかった。
「……お前が、直ちゃんを救いたいと……やつらにとっては無駄だと思えるその長い時間……それは、やつらにとっては無駄な時間ではあったが俺たちには必要な時間だった」
「そう、私たちが表舞台に出てくるその機会が生まれたのだから」
兄貴の言葉を遮るように、静ちゃんが口を挟む。
「静……ちゃん?」
「井上君……いいえ、薫。私たちは尾張の妨害によって早々に舞台からの退場を余儀なくされていた……でもね、あなたが頑張ってくれたおかげで……過去の鍵と、未来の鍵を私たちは手に入れることができた」
「過去の鍵と、未来の鍵?」
「それらが、わっちらと言うことじゃな」
静ちゃんの答えではなく、今まで話を聞いていた花愛が俺の質問への答えを発する。
「花愛……」
「我と……そこにおる、由梨とか言ったな。そこな女子(おなご)が未来の鍵なのじゃろ?」
「多分、そう……私は尾張に……玲に直を失ったあなたが再び直と接触しないように送り込まれた存在。でも、それはあくまでも花愛さんという存在がいないからできたこと……」
「その口ぶりからすると、貴様は尾張の人間から役割を剥奪されたのじゃな」
由梨が口を紡ぎ黙ってしまう。どうやら花愛の言ったことは本当のようだ。
最近俺への接触が頻繁に起きていたことに疑問は感じていた。
まるで会えなくなる前に俺に何かを伝えようとしているそんな風に感じることも少なくはない。
俺の記憶が正しければ、この後、季節が冬に移り変わると同時にカオリは俺の中から消える。
それは俺が、本来初めて経験する大事な人を再度失うという経験だ。
だがそれは避けられない、言わば必要な折り返し地点のようなものだ。
だが、もし花愛と由梨がいるこの状況があれば、今までとは違うこの状況であればあるいはーー。
「カオリはお前の中から消える」
俺のそんな淡い期待を打ち破るように兄貴が残酷な一言を浴びせる。
俺は思わず空いた口が塞がらなかった。
「カオリは俺たちとは違う。お前と直のためにこの世に存在しない存在になっちまった。本来であれば今、この場に、お前の中にいること自体が異常なことなんだ」
「そんなーー」
「人の子の亡くなった後の時間は戻らぬ。それが人という存在の定めじゃ。我のように人ならざる存在……主らが神と呼ぶ存在に成り代わればまた事情は変わるかも知れぬがの」
神……そんなものはまやかしだと思っていた。花愛……クロノスという存在が目の前にいても尚、 俺はその存在を信じきれていない。
だがもしも、神という存在。人という存在ではないにしろカオリが存在し続けてくれるなら俺はーー。
『カオル、それは叶わない願いだ』
俺の中のカオリが今度は俺の淡い期待を否定した。
『俺は、お前と直をこの世界に生かすためにありとあらゆるものを……それこそ神様に渡してしまった……だから俺はお前が思う神という存在になることはできない』
「カオリ……」
『ごめんな。俺もできるならお前らの近くにずっといてやりたい。でも、それはできない。オレの時間は決められているんだ』
「……そう、なんだな……」
『残り少ない時間のお前たちとの時間を俺は大切にしたい。だから……泣くな。カオル』
俺は気付けば、みんながいるにも関わらず大粒の涙を流していた。
その様子にみんなは察したのだろう。言葉にして聞こえることはないが、カオリが俺に何を言ったのかを。
とある生徒会の日々に(三学期) 縛那 @bakuna_pana0117
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