第35話 ANOTHER HEAVEN その13
「ハッハッハハ! 薫、お前ついに神様みたいなやつまでハーレムの中に入れちまったのかぁ!! やっぱおめぇは最高で最高の弟だよ」
「まぁ……色々あってな」
「んでぇ? 本来は尾張の人間側のお前さんがなんでこっちにいるんだぁ?」
兄貴の目つきが少しだけ鋭くなって、由梨を睨んだ。
兄貴がそんな表情をする理由はわかる。
由梨は、初めは尾張家が俺を監視するために次の年の1年間、俺の隣の席で交流を深める予定の、いわば直の代わりとしてあてがわれた存在だ。
本来いた本当の由梨は、本人すら忘れてしまうほど、何度も何度も尾張家によって名前と立場を変えられている。
だが、どんな由梨であっても由梨は由梨だ。俺の知る由梨は一人しかいない。
そんな由梨だからこそーー。
「兄貴、由梨に関しては大丈夫だ。今いる彼女は由梨であり、それ以外の何者でもない。俺が知る由梨なんだ」
「薫……」
「だっ、ハッハッハハ!!! おめぇは本当に、俺たちの予想の遥か先をいきやがるなぁ!!」
「私は、あなたが何も考えていないだけな気がするわ」
「私も……」
静ちゃんと鞠奈ちゃんが、同じような冷めた目で兄貴を見ていた。
そんな二人に近づき、鞠奈ちゃんの肩に兄貴が腕を回す。
「んっなつれねぇ態度とんなよぉ、鞠奈ぁ、せっかく久々に会えたんだぜもっと俺に優しくしてくれてもいいんじゃねぇのかぁ?」
「鞠奈から離れなさい! こんのっ獣っ!! 都合良い時だけ彼氏ヅラして、鞠奈のことちゃんとあんた考えてるのっ!!」
「考えてるよぉ、俺なりに、なっ! なぁ、鞠奈」
「……」
「ちょっと鞠奈! あなたまた騙されそうになってるわよっ!! 何度、この男に裏切られてきた? 今度という今度はーー」
「なぁ!! ちょっと、待ってくれ」
「んぁっ? どうした? 薫」
「いや、その……」
今までのこの3人の何気ないやりとりで、次々に新事実が判明しているのだが!!!
「まず、一つ。静ちゃんと鞠奈ちゃんってーー」
「あれ? 言ってなかった? 姉妹よ」
「しししし、姉妹ぃぃぃぃ!!!」
「……そんなに驚くこと?」
静ちゃんが不思議そうに小首を傾げる。
「いやっ! 驚くよ!! だって、全然似てないよ!! 静ちゃんは星奈さんや紅音みたいなお姉さん系タイプで、鞠奈ちゃんは晴美ちゃんや愛花みたいな可愛い系タイプのーー」
「あっめぇなぁ、薫、静菜はなぁ、こう見えて二人きりだと結構かわいーー」
兄貴の言葉を遮るように、静ちゃんの肘鉄が兄貴の肋骨付近にクリーンヒットする。
兄貴は痛みにより、その場に崩れ落ち、自動的に肩から外れた鞠奈ちゃんを抱き寄せながら静ちゃんが兄貴から離れる。
「余計なこと言ってるんじゃないわよ!! この変態ブラコンバカ!!!」
静ちゃんが珍しく、動揺して真っ赤な顔で言い放つ。
こんな静ちゃんを見るのは初めてかも知れない。
「ふむ。つまり、静ちゃんはカオルに樹さんの面影を重ねて、仕返しのつもりでちょっかいかけていた、と、言うことなんだな」
直のそんな何気ない一言に、静ちゃんの顔が更にいっそう真っ赤になる。
「なっななな、倉沢さん!! 何を言ってるのかしら? イッ、イミワカンナイ!!!」
動揺し過ぎて、ラ◯ラ◯ブの真◯ちゃんみたいな言い方になってるよ。静ちゃん。
「そうか、そうか、そう思って今までの静ちゃんの言動や行動を見れば、ふむ、たしかに可愛い一面だな静ちゃん」
「なっなななな」
「そうだろ? 直、実際静菜はこう見えてけっこう可愛いーー」
「あんたは永眠しなさい!!」
そのままゴッっと膝を兄貴の後頭部目掛けて、静ちゃんが振り下ろし、兄貴は再びコホッっと小さく息を漏らして、床に倒れた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます