第34話 ANOTHER HEAVEN その12

「とりあえず、プレゼント交換会はっじめるわよー」


 ほろ酔い加減の静ちゃんのその一言で、空気が一気に変わる。

 狙ってるのか、天然なのかがわからないのが静ちゃんの侮れないところだ。

 だが、そんな空気感を更に変えるように生徒会室の扉が勢いよく開かれた。


「みんなっ! 大変よっ!!!」


 走ってきて、息がかなり上がった鞠奈ちゃん先生が大声でそう叫んだ。


「鞠奈ちゃん? どうしたんだ? そんなに慌てて」

「説明している時間はないわ!! とにかく外をちてっ!!!」

「外?」


 ただならぬ雰囲気を感じ、俺も含めて生徒会室にいる全員が窓の外を見る。


「んなっ!?」

「なんじゃ……あれは?」

「……」


 窓の外、そこにはあり得ない光景が広がっていた。

 上空にオーロラが出ているのだ。

 通常、日本で空にオーロラが現れるなどあり得ない。

 しかし、今、俺はたしかにこの目でオーロラを見ているのだ。

 そして、それは幻でも夢でもない。

 それを証明するようにみんなも口々にオーロラに対する感想をこぼしていた。


「鞠奈……」


 さっきまでのおふざけ雰囲気を一切感じさせず、真面目な声で静ちゃんが鞠奈ちゃんへと近づく。


「静菜……私……」

「大丈夫。あなたは何も悪くない」

「っでもっ!!」

「あなたと誠二は、関係ないわ……責任は私とカオリ、それにーー」


 静ちゃんが、扉の先を見て大声を上げた。


「隠れてないで出てきたらどうなの? 井上樹(タツキ)」

「……んっだよ……気づいてやがったのか静菜……」


そう言いながら、兄貴が頭をぽりぽりとかきながら暗闇から現れる。

 何故か、いつも以上にボロボロのライダースーツで一冊の本のようなものを小脇に抱えていた。


「あっ! 兄貴ぃ!?」

「よぉ! 薫、元気だったか? 会うのは……いや、別の世界線でもあってるしそんな久しぶりでもねぇか」


 そう言って、口角をあげにへらと笑う。兄貴には別の世界で何度も助けられた。

 おそらく制約の関係で直接伝えることはできなくても何度も助言をくれた。

 兄貴の助言がなければ、きっと直を取り戻そうともせず、一生ーー。



 後悔だけをする人生……。


 由梨がいつかこぼしていた、目に光のない俺の世界線になっていただろう。

 それは、一緒に暮らしていた由梨はもちろん、直も、星奈さんも、清美も、晴美ちゃんも、紅音も、愛花も……みんなを不幸にしてしまう。

 ハーレム王にとって一番してはならないことをしてしまうことになっていただろう。


 だが、何故、今? 兄貴が俺に接触するのも最後の年。

 つまり、直が学園に来なくなって、怜によって生徒会が実質乗っ取られ、居場所がなくなり家に引きこもりがちになった時だったはずだ。


「本来、俺がおめぇにこんな早いタイミングで接触すんのは、イレギュラーだ。だが、んなことは言ってられねぇ……」

「……何かが違うんだな……いつもと……」

「……人数が少し多すぎる。ちょっとだけ外れの時間を使うぞ」


 兄貴が指をパチンと鳴らすと、部屋自体は変化しないが、部屋の中にいるのが俺、直、花愛、由梨、兄貴、静ちゃん、鞠奈ちゃんだけになった。


「薫と直以外は、この世界線の人間じゃねぇな? 何ものだ? まっ、おおよその検討はついてるがな」

「我が先に挨拶しよう。時を司る力の一部を管理してある。クロノスと言う。この世界では花愛と名乗り、愛花の双子の姉という立場におる」

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