第33話 ANOTHER HEAVEN その11
『まぁまぁ、誠二。義弟君は今、紅音達と楽しい時間を過ごしているんだ。これ以上俺たちが邪魔するのも野暮だろ?』
『……良いか! 僕は完全にはお前のことーー』
『はいはい。終わり終わり。またな義弟君』
去り際、誠一さんの『紅音を泣かせたらただじゃおかない』というボソリという言葉が一番胸にずしりと響いた。
「……おる、かおる!!」
直の声に、ハッと意識を取り戻し。辺りを見回す。
クリスマスの飾りや、みんなの格好をみてそんなに時間が経っているのではないということはわかった。
「……もしかして、兄さんたち?」
紅音は本当にこういう時の勘は、直以上に鋭い。
別に隠す必要はないため「あぁ」と短く肯定の返事を返す。
「なるほど、それならこの30分弱、薫の意思がここになかったことは納得できるな」
「ふっ、時を司る我にも見破れぬとは、流石始まりの5人のメンバーよ」
「だとしても大胆よねー。いつもはもう少し、慎重に接触してきてたとは思うんだけど」
この瞬間、直、クロノス、由梨の3人は俺と同じことを感じたのだろう。
今回の周回はどこか、おかしい。
今まで、慎重に接触をしてきたはずの人物が軒並みお祭りだとばかりにあまりに無防備過ぎる。
それは、相手方である直の……尾張家のやり方も同じだ。
息子の……あいつの怜の接触がこの時期なのはいくら何でも早すぎる。
今回の周回は、俺たちだけじゃない、あちらも早急にケリをつけたいものなのかも知れない。
『だが、期間は変えることはできない』
「カオリ……」
『それがオレたちのルールであり、そして唯一守られている条件でもある。あくまでも結末はこの蒼海学園を卒業するタイミング。つまり、一年後というわけだ』
そう、この冬。なんらかの理由でカオリと俺は一切の意思疎通が出来なくなり、更に、直はこの学園で過ごす時間は大幅になくなる。
そして、直の代わりに俺たちのクラスにやってくるのが、怜、やつだ。
だが、何度も言うように今回はイレギュラー要素が多すぎる。
まずひとつ、花愛ことクロノスと愛花が同じ時間軸に2人でいること。これがまず一つ。
そして、紅音が生徒会メンバーとの関係を持った時点で静ちゃんがこの蒼海学園にいること。
これが一つ。
そして、この場に既に由梨がいること、長月兄弟が消えずに俺に接触できること。
考えれば考えるだけいつもと違うことばかりが出てくる。
始まりの5人……カオリ、静ちゃん、直の実の父親、誠一さん、そして兄貴。
そして、それに関わる誠二と、鞠奈ちゃん先生……
全ては運命だったと、皆口にしたが、結局何度繰り返してもその答えはわからなかった。
俺の世界を終わらせる力と、直の持つ世界の始まりを司る力……。
この力も結局のところなぜ、そんな力が俺たちにあるのかもわからない。
全ては、あの日。あの瞬間。兄貴は父さんと母さんは関係なく、俺1人が原因の一端だと言っていた。
俺と直の誕生を見守っていた、父さん……。
偶然、同じ病院で、同じ時間に生まれた俺と直。
そして、同時に突然いなくなった……カオリ……。
バラバラだったはずのパズルが今、もしかしたら出来あがろうとしているのかも知れない。
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