第31話 ANOTHER HEAVEN その9
「……そうか、カオル。私は些か、お前に甘かったようだな……」
「……はへっ?」
直が、あまり見せたことのない表情を浮かべる。
その圧に、思わず一歩また一歩っと後退りをしてしまう。
「なっ、直、そんな顔したって未来のはは、ハーレム王としての俺のーー」
「そうだな……お前が仮にハーレム王だとするなら、そのハーレム王を躾けるための私は今からお前を教育しておかねばならないな」
「きょ、教育だと!?」
直が、そう言ってパチンと指を鳴らす。
視界が、世界が、歪んでいく。
この感覚を俺は知っている。そう、世界が力によって組み替えられていくこの感覚。
誰も、力を行使した者に従うしかないこの抗いようのないこの現象に俺は、意識を新たな世界の俺へと引き継がせようとーー。
「と、いうわけでプレゼントのないカオルは代わりにその身を明日、クリスマスの日に当たった人間のために使うこと。拒否権はない」
「んなっ!?」
「異論は、ないよな? カオル?」
新たに構築された世界。それは、愛花が余計な一言を滑らす前に俺のプレゼントを用意できなかったことへの罰を決められた世界。
つまり、俺がマウントを一切取れなかった世界だ。
世界が組み替えられたことに気づいた、花愛と由梨は一瞬こんなくだらないことのために力を使ったことにため息をつくも、俺の味方になる、なんて都合の良いことにはならず……。
依然として、9対1の構図は変わることはなかった。
「……はぁ……わかった。プレゼントを用意してこなかった俺のミスだ。明日、25日は交換に選ばれた人のために使おう」
「質問なんだけど」
「……なんだ? 清美……?」
「明日、どんなことであんたを使っても良いってことで良いのよね?」
「えっ?」
「構わないぞ」
「直!? なんで、お前が答えーー」
脅しのように俺の目線の先に、指ぱっちんをする仕草を見せる。
反論をすれば即座に世界を組み替え、今より更に俺にとって都合の悪い世界にするぞという無言の圧力だ。
「……あぁ、構わない……」
俺の素直さに一瞬、清美が、んっ? という不思議な表情を浮かべたがすぐに元に戻す。
「薫、あんた今の言葉に嘘、偽りはないわよね?」
「お前は、明日俺に何をやらせる気だよ!!」
「……大丈夫、命まではとらないわ」
「命以外は、とられる覚悟しないといけないのぉ? 俺」
「はい」
「なんだ? 紅音」
「明日の薫の所有権は、直、さっきのトントン相撲であなたにあるはずだけど……それでもいいの?」
「構わない。そもそもあれはただの茶番であって、あんなもので、カオルを手に入れても私は満足しないからな」
「では、晴美が井上せんぱーー薫さんを手に入れた際には1日24時間耐久ゲームに付き合っていただきます!!」
「24時間耐久ゲーム!?」
「安心してください!! 食事とおトイレと軽度の仮眠の時間くらいは、ちゃんとご用意します!!」
「逆に言えば、それ以外はひたすら俺はゲームをさせられるんですね!! わかります!!」
「なるほどね、なら、私は、井上くんで色んな実験をしたいわね」
「実験は、もちろん命の保証はしてくれるんですよね!?」
「……人の心臓って、割と止まっても猶予あるのよ」
俺、明日星奈さんに心臓止まられるかもしれないの!?
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