第28話 ANOTHER HEAVEN その6

 トントン、トントンと直と紅音が激しく土俵を叩き合う。


 とても、シュールな光景ではあるが、当の2人は真剣そのものだった。


 そもそも、トントン相撲という実に原始的に見えて、奥の深い遊びは意外とないだろう。


 何故なら、このトントン相撲は力の掛け方や、相手の力士の状態を細かく見たものが勝利する。


 力加減を間違えば、途端に自分の力士が倒れそのまま戦闘不能となる。


 そして、綺麗に相手の力士と組み合ったとしても両者が共倒れになってしまう。


 そう、実はこのトントン相撲という遊びは相手を土俵から出すという勝ち方は中々成立しないのだ。


 だが、今回のトントン相撲の勝敗はあくまでも相手の力士を土俵外に押し出した方。


 つまり、転倒して負けという従来の勝ち方ではないトントン相撲のやり方は通じないのである。


「ナオリエル転倒、すぐに立て直して続行して」

「っくそ……」

「転倒ばかりして、いつまで逃げられるかしらね?」

「ふっ、そっちこそ! 既に私のナオリエルはお前を土俵外近くまで押し出しているんだぞ」

「そうね、でも、後一回転倒すれば仕切り直し、また中央からのぶつかり合いよ」

「っく……」


 そう、転倒し続けたとしても相手を土俵の外に出せば勝ちというこのルールには大きな問題点があった。


 それは、転倒したとしてもひたすら叩き合い、相手を土俵外に追いやった方が強いのではないかという判断だ。


 しかし、それは厳正なトントン相撲の美学には反してしまう。


 そこで、急遽設けられたのがリセット制度だ。


 リセット制度というのは、転倒数に応じて言葉通り仕切り直しをするというものだ。


 更に、制限時間内に勝負が決まらなかった場合、転倒数がより多いものが敗者となる。


 転倒は、もはや諸刃の剣なのだ。


 相手を土俵外まで一気に追いやることができる反面、一定の転倒数に達してしまえば仕切り直しをされ、場合によってはそのまま負けてしまうこともあるのだ。


 つまり、今までの直の攻め方からしてタイムアップでの勝利は諦めている……。


 つまりーー。


「ナオリエル、転倒。規定数に到達したため中央に力士を2人とも戻して仕切り直しよ」

「残念だったわね。追い詰めていたのに、逆に追い詰められんじゃない?」

「時間はまだある。無駄口を叩く暇はないぞ! さぁ、力士をセットしろ!! アカエル!!」

「往生際の悪いのもあまり褒められたものじゃないわよ。会長女」


 んっ? 今の会長ちゃんは水星ちゃん的なニュアンスなのか? ってか、待て待てもはや名前にすら原型がーー。


「ねぇ、ユラン。どっちが勝つと思う?」

「興味ないわ。私は、人間には……」

「そっ、じゃああなたの興味がまだあるのは……」

「……」


 星奈さんが楽しそうに事態を見る中、由梨はどこか真剣な目つきで2人の力士を……って!!!


「お前ら!! この世界の時代設定を完全に無視したパロディをいつまで続ける気だよ!!! もう、やりたい放題にも程があるぞ!!!」


 さっきまでの空気に危うく流されそうになっていた。そうだよ、この作品の設定より10年近く後の話を今するのは流石にーー。

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