第24話 ANOTHER HEAVEN その2

「長月さん」

「……何かしら? 神楽坂さん?」


 紅音と星奈さんの間に、見えないバチバチした火花が見えるようだった。


「星奈さん、紅音、今日は楽しい日だし、仲良くーー」

「薫は、黙ってて」

「井上君、次、口を出したらお仕置きよ」


 もうダメだ、お終いだ……。


「長月さん、あの文化祭の劇以来なんだかんだであなたとの関わりもダラダラ続いていたけど、はっきりさせましょうか?」

「何をでしょうか?」

「私たちの関係についてよ、あなたは当初私たち生徒会を敵視してたわよね?」

「そうですね、確かに、風紀委員としての私はあなたたち生徒会に関しては今も見逃せない事項が多々あります」

「そう……」

「はい……」


 睨み合いは続いており、重苦しい空気は流れ続けていた。


 だが、そんな空気を気にしていないのか、直は2つ目のチキンに手を伸ばし、美味しそうに頬張ったいた。


 俺に目で心配するなと言っているが、この空気感で安心しろと言われても……。


「ただ……」

「?」

「それは、あくまで風紀委員である私であればです。今、ここにいるのは何者でもない、ただの蒼海学園に所属する1人の生徒である、長月紅音です」

「……何が言いたいのかしら?」

「ただの一生徒である私には、あなたたちが何をしてもそれを指摘する権限はありません。同時に、何をしたとしてもそれを楽しむ権利はあるものだと主張します」

「つまり?」

「私は、今日、この場を楽しむために来ています。倉沢生徒会長にも、楽しいクリスマス会をするから来ないか? というお誘いを受け、私はこの場にいます」

「なるほど、つまり、あなたはこの場所を楽しむためだけにいる、という認識で良いかしら?」

「はい、その認識で結構です。神楽坂さん」

「そういうことならーー」


 星奈さんは、険しい表情を崩し、紅音に抱きついた。


「なっ、何をーー」

「純粋に楽しむために来たということなら、話は別よ。私は、あなたとも精一杯楽しみたいと思っているわ」

「それと今のこの状況の何が関係しているの?」

「……これ以上、言葉は必要?」

「ひっ、必要ですぅ!!!」

「……可愛い、どんな声で鳴くのかしら?」

「いっ、いやぁぁぁぁ!!!!」


 あー、星奈さんの餌食になってしまったか……。


 直のやつ、こうなることがわかっていてこんな余裕だったのか。


「どうやら、仲良くやっているようで良いじゃないか? なぁ、薫」

「仲良く、なのか?」

「? あんなにスキンシップをしているんだ、仲が良くなったに決まっているだろ?」

「一方的なスキンシップを仲良くとはーー」

「やっ、やりましたね……」

「あら? すごく反抗的な目ね」

「お返しですっ!!!」

「あら、あら、いいわ。いいわよ!! 紅音!!」

「このっ、このっ、星奈ぁ!」


 意外にも、紅音は星奈さんに負けじと抵抗し星奈さんはその様子をとても楽しんでいるように見えた。


「なっ? 仲がよいだろ?」

「……まぁ、そう、だな」


 紅音のやつ、案外耐性はあったんだな。


 そんなやりとりをしている間に、遅れていた愛花、花愛も合流し、いよいよクリスマスパーティーは本格的に賑やかになってきた。


 本当に、こんなに穏やかな時間を過ごせるのはいつぶりだろうか。

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