第23話 ANOTHER HEAVEN その1

「さて、みんなお疲れ様!」


 直の号令と共に、みんながジュースの入ったコップで乾杯を交わす。


 本日蒼海学園は今年最後の終業式を終えた。


 そして、明日からは待望の冬休みへと突入する。


 だが、その前に本日はクリスマス・イブだ。


 せっかくのイブだからと、直はこの生徒会室で急遽クリスマス会をすると言い出した。


 そんなわがままが学園側に通るはずがない……まぁ、普通ならそう思うだろう。


 だがーー。


「でも、どうやって理事長を説得したんですか? 星奈さん」

「あら? 薫、そんなこと今更聞きたいの?」

「いえ、聞いてみただけです……」


 深くは踏み込まない。それが、一番賢明な判断だと俺は知っている。


 星奈さんのことは、何度、繰り返してもわかったことは多く見積もっても3割が限界だろう。


 だが、それで良い。わからないところがある。それが、星奈さんの魅力の一つでもあるのだから。


「あれ? そう言えば愛花と花愛は?」

「お姉ちゃん、本当に聞いてなかったんだね。愛花ちゃんたち用事があって、遅れるって言ってたよ」

「そうだった? まっ、来るなら良いわ。それより……」

「……何? 堀部さん」


 チキンを齧りながら、清美は紅音を睨んでいた。


「私が呼んだんだ。紅音、今日は楽しんでいってくれ」

「……学園内でこんな派手な催し物……風紀委員としては見逃せません……」

「なんですって? あんた、ここに来てまでそんなーー」

「ただ……今日は年に一度のクリスマス・イブです。少しくらい羽目を外したとしても許されるでしょう……きっと」


 そう言って、紅音が柔らかい笑みを浮かべる。


「なっ……」

「清美、今日はクリスマス・イブなんだ。そんな怖い顔するのはやめないか?」

「かっ、薫……まっ、まぁ、楽しみたいっていうなら、あたしも何も言わないわ!! ねっ、ねぇ、風紀委員長!!」

「紅音……」

「えっ?」

「いつまでも、役職で呼ぶんでなくて名前で呼んでもらえる? ねっ、堀部さん」

「だっ、たら、あんたもあたしのこと、清美って呼んでよ! あっ、紅音!!」

「……わかったわ。清美」


 紅音がそう呼ぶと、清美は嬉しそうに笑い紅音に抱きついた。


「ちょ、ちょっと!!」

「紅音、紅音、紅音ー!!!」

「ひっ、人の名前を無闇やたらと連呼しないで!!」

「そんなこと言って、本当は嬉しいんでしょ? ねっ、紅音」

「あっ、あなた、さっきまでと人が変わり過ぎじゃーー」

「いつもツンツンしてるくせに、名前で呼んでなんて可愛いこと言う風紀委員長さんには言われたくないなー」

「なっ、それはーー!!!!」

「あっ、あの!!!」


 紅音と清美が言い合っている、間に晴美ちゃんが入り込んでくる。


「あなたもよろしくね。えーっと……」

「晴美で良いです。えっと……紅音先輩? で良いですか?」

「もちろんよ。晴美さん、その仲良くしてくれると嬉しいわ」

「はっ! はいっ!!!」


 晴美ちゃんが嬉しそうに頷いた。

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