第19話 あなたの選んだこの時を その9

 由梨は、苦笑いを浮かべつつそう言い放って姿を消した。


 大丈夫だ。あいつは、文句は言いつつも、必ずーー。


「薫!! 照明復旧したぞ! どうすれば良い!!」

「大丈夫だ! そのまま明かりをつけろ!!」

「了解」





「おそらく、奴の妨害が入ることになると思う」

「ふむ、それは、お前の経験からか?」

「あのー……妨害っていうのはどなたのーー」

「だから! みんなには、芝居以上にアドリブの稽古をしてもらう!! そしてーー」




 照明が一気につき明るくなると、舞台上の紅音と直が目を合わせる。


「カットー!!!」


 舞台端から、清美、晴美ちゃん、星奈さんが現れ、愛花が明るい音楽を流し始める。


「中々良い芝居だったわよ! 直」

「ふっ、当たり前だ。私を誰だと思っている! 倉沢直、だぞ?」


 直が得意げに笑う。


「それにしても、紅音ちゃんも良かったわ。直のお芝居にぴったり合わせるんだもの」

「ありがとうございます。神楽坂さん」

「晴美もとーっても感動しました!!」

「ありがとう、涼宮さん嬉しいわ」

「じゃあ、そんな感じで少し休憩したら再開するから確自一旦解散!!」


 清美が目の前で手を叩き、みんなが散り散りになっていく。


 急な暗転に驚いていた観客たちも皆、完璧に生徒会の唐突な演出だと思ってくれたみたいだ。





「なるほど……暗転をきっかけに劇中劇にしてしまう。と、いうわけか」

「あのー……でも、その暗転のタイミングが例えばセリフ中とかだった場合はどうなるのでしょうか?」

「キリが良いところまでは、暗闇の中での芝居になる、だろうね。だから、暗い中での稽古も通常行うものより多く時間をとろうと思う。同時に、真っ暗な中でも見えるように、これを」

「これは、なんだ?」

「ちいさな、ライト……かしらね?」

「なるほど、だがこれを板の上で照らせば違和感になるんではないか? 薫?」

「……そうか、だからこそのこの台本上の演出なのね!!」

「んっ? どういうことだ? 紅音?」

「どうしても引っかかってたのよ。この台本全体へのとある違和感。そう、ナレーションであるはずの井上くんにだけはみえているこの命の灯火という設定」

「あっ、それ晴美も気になっていました。台本の最後になるつれ、このナレーション上での命の灯火が徐々に消えていくと言う演出」

「あー……確かに、どういう意味があるんだろうってあたしも思ってたわ」

「薫、この命の灯火って結局、なんなのかしら?」

「それはーー」




「薫、そろそろ終わりが近いぞ」

「BGM変えちゃうね!」

「あぁ、頼む」


「なぁ、直」

「なんだ? 紅音」

「私、あの芝居……五つの願いが、どうしてもお芝居だと思えないの」

「なんだ? そんなに、私と結ばれたかったのか?」

「からかわないで! ……ねぇ、直、あなたも薄々感じているんじゃないの? この世界がどこか別の世界と繋がってしまった……ううん、元々繋がっているって」

「さぁあな。そろそろ帰るぞ紅音」

「あっ、ちょっと待ってよ!! 直!!」

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