第18話 あなたの選んだこの時を その8
「いよいよ本番だな! みんな、準備は良いな?」
「誰に言っている? もちろん準備万端に決まっているだろう」
「うー……晴美、緊張してきました」
「大丈夫? 晴美。良い? 人をみんなじゃがいもだと思えば平気だからね」
「あーら、じゃがいもより、豚のが良いわよ。醜いぶーた」
「あまり、自分の趣味を他人に押し付けるのは感心しないな、神楽坂」
「うー!! あたしはわくわくしてるぞー!!」
「落ち着いて、いつも通りやれば平気なはずよ!」
思えば、ここに来るまで長かった。何度も台本を書き直させられ、演出に細かく指摘を入れられ……だが、ようやく、ようやくこの日を迎えられた。
この舞台公演が、あいつがーー俺たちが出来なかった学生生活の1ページなんだ……。
「行くぞ!! みんな!!」
俺の一言に、それぞれが返事を返す。
「今から、語るのは一組の男女に起こった不思議な出来事です」
俺のナレーションから、始まり舞台は順調に進んでいく。
一人の男が、無理難題をこなしながら四人の女の子と絆を深めていく。
そう、これは俺たちに起こったあの出来事を物語風に俺がわかりやすくまとめたものであり、俺はあくまでも外から見ているストーリーテラー的な役割をこなす。
「ニオス、お前はいったい本当は誰が一番大事なんだ!!」
直が、迫真の演技で迫る。
「エアリー……何度も言うが、僕はみんなが大事なんだ!! だから、一人を選ぶなんてーー」
男装をした紅音が、その直の芝居に応える。
まぁ、俺の立場的な役割になるのだが、直か紅音か最後まで迷っていたが、自分をモデルにした役を誰かにやられるのは嫌だという直の意見を尊重し、紅音に決まった。
紅音は、最初はとても不満そうだったが稽古が始まり、もう逃げられないと理解してからは、前向きに真摯に演技に向き合ってくれた。
「そんなことを言って!! じゃあ、お前のために犠牲になった、アンやフェレスやニーナに対しても同じことが言えるのか!! ニオス!!」
「そっ、それは……」
「答えろ!! ニオス!!!」
「っぐ……」
物語はいよいよクライマックス。
観客も、直たちの気持ちも最高潮に盛り上がっているはずだ。
その時だ……。
「んっ?」
「なに?」
「停電……? 花愛、何があった?」
「わからない、急に照明が落ちて、くっそ! つかないぞ!!」
「……カオリ」
『僅か、だけども、感じる……やつらの妨害だろうな……」
っくそ、派手に動きすぎたか……この行動に何の意味があるのかをやつは、わかっていないだろうが……何かしらの意味があることには気付かれたか……。
「由梨……!」
「まぁ、あたしの出番、よねー。まぁ、出来る限り頑張ってみるね」
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