第16話 いつかこの場所で その9
そう言って消えていく二人は、満足そうな表情を浮かべていて……。
俺は、ようやく一つの答えに辿り着けたのだと感じた。
「もしかして、今なんかすーっごく満足してる気分になってる?」
「あぁ」
「へー、素直だね。珍しい」
「あぁ、今は素直にお前の言葉も受け取れるようになったよ。由梨……」
「……あたしの知らない回数もう、繰り返してるんだね……」
「なんで、そう思う?」
「あたしの知ってる薫は、だいたい悪態をついてきてるから」
「それは、ある時期お前を無視してからを過ぎてか?」
「……何千、何万とかのレベルで繰り返してるね? カオル、もしかして精神的にはあたし超えてる?」
「同じ、くらいってことにしておいてくれ」
「りょーかい」
「おっ、時間か。じゃあな由梨、と言ってもまたすぐに会うだろうけどな」
「そうだね、じゃあちょっとの間バイバイ、カオル」
笑顔の由梨が、俺に手を振りそのまま遠ざかっていく。
あいつにも、もうあんな作り物の笑顔させたりなんかしない。
「っと、戻ってきたが……紅音ーー直、お前がなんでここに!?」
「お前が、長月兄弟と話している間のカオリに誘われて大変おいしいオムライスをご馳走になっていた」
「……その口ぶり、紅音に全部話したのか?」
「すまんな、お前の出番を一つ潰してしまって……だが、薫、お前はまた私の知らないところで勝手なことをしてたようだな」
直の表情がだんだん険しくなっていく、どうやら久々に直の勘に触ったようだ。
「井上君……いいえ、薫、倉沢さんの……直の言ったことって本当なの?」
俺たちが好き勝手に動き回るせいで、紅音の記憶にも僅かなブレが生じはじめている。
当たり前だ……人の人生はどんな選択をしても一度きり、やり直しが効かない……それが規則だ。
その規則を俺は……いや、俺たちは背いている。
背こうとして背けるようなものでないものに背いているんだ。
必ず、どこかに、不具合が出てくる……いや、それごその程度で済んでいるというのも、多分カオリたちのおかげだ。
「始まりの人々……全ての始まりはーー」
「おっと、それ以上は言うのはなしだ」
「えっ!?」
「そうだな……それよりもーー」
俺と直が一斉に、紅音の方を向く。
「なっ、なに?」
「文化祭!」
「ぶっ、文化祭!?」
「そうだな、文化祭、ふむ、まずはこれをきちんと終わらせる、その後のことはまた終わってから考えよう!」
「そ、そんな! 悠長な!! あなたたちの言ったことが本当ならそんなことしてる場合じゃーー」
「違う、そうじゃないんだ。紅音」
「えっ?」
「当たり前のことを当たり前にこなす、これが一番大事で一番難しいんだ」
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