第14話 いつもこの場所で その7

「うっし! じゃあ!! いただきまーす!」

「いただきます」

「……いた、だきます」


 なんとも、不思議な光景が私の目の前に広がっている。


 女3人、いや、見た目的には1:2の比率で男女がテーブルを囲み、オムライスを食べている。


 だが、私は確かにもう一人の女性。倉沢直から発せられる鋭い視線に恐縮するばかりだった。


「うめー! うめーぞ!! 俺が、作ったとは思えないくらいに今日は上手くできたぞ!!!」


 夢中で、ぱくつきながら当の本人は呑気にスプーンを動かしている。


「そうだな、流石、カオル」


 倉沢直も、ゆっくりとスプーンを動かす。


「んっ? どうした? 紅音、全然進んでねぇぞ? 口、合わなかったか?」

「そっ、そんなことはないわ! 美味しいわよ!!」

「なーら、よかった。どんどん食え! おかわりもあるからな!!」


 そう言って、私に笑顔を向ける。


「わたしも、少しもらうかな」

「おう! 直もどんどん食え!! お前、まだまだちっちぇんだからよ!!」

「あなたが大きくなりすぎなのよ、カオル……」


 そう言って、倉沢直が小さく笑う。


「長月さんは?」

「はっ、はい!?」

「おかわり、いる?」

「あっ、じ、自分でやるのでお構いなく!!」

「そうか……」

「あー、なんだ……腹一杯になったら急に眠くーー」


 言うや、いなや数秒で寝息を立ててカオリさんが眠ってしまった。


「えっ? えぇぇぇ!!! ちょ、ちょっと大丈ーー」

「具現化の代償は、思った以上に体に負荷をかけるようだな……」

「えっ?」

「長月、薫はどこだ?」

「えっ?」

「とぼけても無駄だ。わたしにはわかる。ここにいるのは、薫じゃない……カオリだ」

「……どうして、そんなことわかるんですか?」

「舐めているのか? わたしを、薫とカオリと過ごした時間は、長月、君よりもずっと長いんだ」

「それはーー」

「加えて……」


 倉沢直の右目が、翠色に光る。


「えっ……?」

「厨二病の頃なら、飛び跳ねて喜んだだろうな。今は、そこまで良いものだとは思えないが……」


 そう言って、苦笑いを浮かべていた。


「では、改めて聞こう。薫は、どこにいる?」

「……兄さんたちと何か話し込んでいます……」

「……なるほど、立場を変えているのか……殴り合いではなく、ちゃんと話し合いに持ち込めただけでも成長が見えるな」

「あのっ! さっきから、あなたは何をーー」

「長月、君は、この世界が何度も何度も作り替えられ、繰り返し、少しずつ変化するものだ、と言ったら信じるか?」

「……厨二病的なやつ、ですか?」

「そうだな……だが、わたしと君がこうして会うのは実に数百回目になるわけだが、この時期に、こうして2人で話すのは今回が初めてだ」

「何を言ってーー」

「わたしたちは知らなければならないんだ【始まりの鍵】となる人たちのことを」

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