第13話 いつもこの場所で その6

「……カオリ、お姉ちゃん、か……」

「……? どう、したんですか?」

「いや、なんかそう言われるのは改めて新鮮だなって……カオルは、俺のことカオリって呼んでたからさ」

「あっ、そうだったんですね」

「でも、悪くないね。お姉ちゃんって呼ばれるのはさ」


 そう言って、カオリさんは私に笑顔を浮かべる。


 それがどこか、兄さんたちに重なるようで……。


 二人で玄関を出ると、木枯らしが吹き少し身震いをする。


「寒い、ですね」

「あぁ、もうすぐ冬だしな」


 そう言って、空を見上げていたカオリさんはどこか寂しそうだった。


 きっと、彼女は予感しているのだろう。



       井上薫との別れを……。



 何故かわからないけど、私はそう感じていた。


「街、クリスマスムードですね。カオリ、お姉ちゃん」

「おいおい、アカネが言い出したんだろ? なんで、お前の方が照れてんだよ」

「だっ、だって……へへへ」

「可愛いやつだな……お前」

「かっ、可愛い!?」

「あぁ、可愛いと思うぜ。アカネはもっと自信を持った方が良い」

「……昔……」

「んっ?」

「一度だけ、小さな男の子にそう言われたことがあります。可愛いって……」

「そうか……」

「あれって、カオーー」


「何、しているんだ……薫……」


 言いかけた私の言葉を遮る様に、凄まじく鋭い目つきをして倉沢直生徒会長が私たちを睨んでいた。


「おっ、直じゃねぇか。奇遇だな」


 呑気か!? 状況がわかっているのだろうかこの人は!! きっと、倉沢直生徒会長は井上薫のことが好き。


 そういうことに疎い私ですら、それはわかる。


 つまり、これは俗に言う【修羅場】と言うやつなのだろう……。


 マズイ……それなら、私がどうにかうまいことーー。


「今、アカネと買い物してこれからオムライス作るんだけど、飯、まだか? お前も食って行くか?」


 バカなの!! なんで、そう地雷みたいな発言がポンポン口から溢れるの!! 


 わざとなの!! わざとやってるの!!


「……行く」

「えっ……!?」

「うしっ、決まりだな! じゃあ材料3人分買わないとな。あっ、おばさんにちゃんと連絡しておけよ!!」

「……大丈夫。ママには今日遅くなると既に連絡済み、だからな」

「そっか、じゃあ、ちょうど良いな!!」

「えぇ、ちょうどいい、わね……」


 そう言って、倉沢直が私の方に再び鋭い視線を向ける。



   どうなってしまうの? これから



「直、お前は何か食いたいもの、あるか?」

「……そうね、いつものあのお菓子が食べたいわ」

「お菓子って……ありゃあそんな大層なもんじゃ」

「ダメなの?」

「……だぁぁったく、どいつもこいつもしょうがねぇな」

「ありがとう。好きよ」


 あれ? 気のせいだろうか……今……。


    彼女が笑ったように見えたのは……


 

 

 

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