第11話 いつかこの場所で その4
「……それで、紅音は……倉沢直は納得するのか?」
「……きっとしないだろうな……」
「それが、わかってて、お前はそれをしようというのか?」
「あぁ……」
「……!!」
「兄さん!!」
誠一の拳が、触れる直前で止まる。俺はその向かってきた拳をただ見つめ、同時に誠一から目を離さなかった。
「嘘……だな。その顔は」
「……あんたには敵わないな……」
ゆっくりと誠一が拳を下ろし、俺に向かって小さく笑う。
「正しくは、そうしようとして失敗した……が、正解か……」
「あんた、占い師か何かになっていれば、相当儲けられたんじゃないか?」
「いやいや、興味のないやつにはまるでこの勘は働かないからな……」
「勘、か……」
「わかるだろ? そういう勘?」
「あぁ、今ならなんだかわかる気がする」
そういうと、2人で意味もなく笑い合う。
そう、もっと話すべきだったんだ……この人たちとも……。
「何を、2人で和み合っているんだ……」
腕組みをし、不機嫌そうな表情で誠二が俺たちを見ていた。
「なんだ? 誠二、1人だけ除け者にされてヘソ曲げたのか?」
「兄さん、からかわないでくれ……井上薫」
誠二がゆっくりと、俺の方へ歩いて行く。
「あんたともゆっくり話がしたい? ダメか?」
「ダメだ……と、言いたいが……今の君になら少しくらいは話をする価値があるのかも知れない」
「こいつは、驚いた。誠二が他人を認めるなんて」
「……正直、僕も少し驚いている。まさか、兄さんや紅音以外の人間とこうして話をする気になるとは僕自身思ってもみなかった」
「弟……」
「なるほど……紅音が何故、君に好意を持ったのか今ならほんの少しだけわかる気がする」
「弟!!」
「だが……その言い方はやめろ。僕には、誠二という名前がある。お前には特別にその名前で呼ぶことを許可してやる」
「弟!!!」
「だからーー」
「ったはっははは!!!」
「兄さん!!!」
「いや、悪い。悪い。井上薫、俺もお前さんには誠一と呼んでくれて良い。もしかしたら、兄弟になるかもしれないんだからな」
「誠一さん……」
「よろしく頼むぜ、薫」
「はっ! はいっ!!!」
「薫、僕も……その……」
「?」
「なっ、なんでもない!!」
「……よろしくな、誠二」
「……!! って、呼び捨てにするな!! 一応、きみよりも僕は年上ーー」
「じゃれあいはこの辺りにした方が良いな……。教えてやる……紅音と俺たちの母親について」
「……よろしく頼む……」
俺と誠一の真剣な表情で、さっきまで騒がしかった誠二も口を閉ざした。
「そうだな……まずは、俺と誠二、そして紅音には本当の血の繋がりはない、ということからの説明からした方が良いな」
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